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ポジティブ心理学に関する研究 ~楽観主義者と悲観主義者の違い、基礎的な研究について紹介

ポジティブ感情の経験をすることで、見方や考え方そして行動に変化が生まれ、前向きな気持ちになります。
その結果、成功に繋がるチャンスを生み、健康度や幸福度があがるといわれています。このような概念はどのような研究から導かれているのでしょうか。
今回は、ポジティブ心理学に関する研究について学んでいきましょう。

※本記事は2023年2月22日に実施された勉強会について、次の動画の内容(一部)を編集して作成しています。
⑤ポジティブ心理学に関する研究【ポジティブ心理学勉強会】



【目次】
1.楽観主義者と悲観主義者の違い
2.「説明スタイル」という概念
3.ポジティブ心理学に関する研究



1.楽観主義者と悲観主義者の違い

はじめに、楽観主義者と悲観主義者について説明していきます。
楽観主義者の人は、EQ(Emotional Intelligence Quotient)社会的情動知能という、上手に人と付き合える能力が強いといわれています。それぞれその特徴を下記に示します。

楽観主義者の特徴

  • 楽観的説明スタイル=EQが高い​
  • 逆境を「乗り越えるべきチャンス」と考え一層努力する​
  • より意欲的である​
  • 決断力がある​

悲観主義者の特徴​

  • 悲観的説明スタイル=EQが低い​
  • 逆境を「克服することのできない障害で、避けるべきものだ」と考え、すぐに諦める​​
  • 困難に圧倒される​
  • 意欲を失いやすい

楽観主義者は、逆境を「乗り越えるべきチャンス」と考え、一層努力をします。そうすることで、より意欲的に決断力を持って進むことができます。結果的に、成功することで自分の力を高めていきます
逆に悲観主義者の特徴は、EQが低いという相関があります。この人たちは逆境を「克服することのできない障害」で避けるべきものだと考えすぐに諦めてしまう傾向があります。そのような状況に出会った時に、圧倒されて簡単に意欲を失ってしまいます

2.「説明スタイル」という概念

この違いはなぜ起こるのかということをセリグマンは「説明スタイル」という概念で説明しています。
セリグマンは、科学的に悲観主義者の人でも楽観主義者になれるということを提唱しました。
起こった結果をどのように説明するか(説明スタイル)は、色々な解釈があり、自由です。「失敗」「成功」に対する説明スタイルについて、その捉え方をそれぞれ「永続性」「普遍性」「個人度」に分けてみていきます。

説明スタイル

永続性

例えば、楽観主義者の人が失敗をすると、「今日は13日の金曜日だから失敗したんだ」と考えます。これは、その出来事を一時的なものとして捉えることができています。ところが悲観主義者の人は「いつもそうだ」と失敗した原因をずっと後も続くものとして、永続的なものとして捉えます。

普遍性

原因の説明の仕方として特異的な捉え方をし、例えば「この本は役に立たない」と楽観主義者といいます。つまり、別の本であったら役に立つと考えますが、悲観主義者は本を普遍化してしまい「本は役に立たない」と捉えてしまいます。

個人度

課題の捉え方として、楽観主義者は、「課題が難しかったからうまくいかない」と考え、悲観主義者は、「私には能力がない」と捉え、次の課題でも同様の捉え方となってしまうでしょう。

その失敗した原因を自分が苦しまない、尾を引かないような説明の仕方にすることが大切です。
成功に対する説明スタイルについても、楽観主義者と悲観主義者で違ってきます。起こった出来事を、自分がどう解釈し説明するか、またどのような原因を求めているかを意識的に変えることによって、科学的な研究から、悲観的な考え方を楽観的な考え方に変えることができることがわかっています。

成功する人材というのは成功したから楽観的になる、あるいは幸せになるのではなくて、楽観的な特性を持っているから成功するといえます。それは適性や能力が相まってということがありますが、中核の資源、資産として考えることが重要です。

3.ポジティブ心理学に関する研究

次に、楽観回路がよく働く人の行動特性について説明していきます。

楽観回路がよく働く人の行動特性

とにかくネガティブな考えに懐疑的です。ネガティブ感情は良くない、切り替えようと捉えます。うまくいかなかったこともありのまま受け入れ、違う角度で建設的にそれを乗り越えるようにします。
少し時間をかけて、広い枠組みで相対的にその問題を見ていくことで、ポジティブ感情を経験するようにします。その結果、考え方や行動のレパートリーが拡がり、それが成功するチャンスを生む、そして資源となり、ポジティブ感情をさらに高めていくことになります。こちらは、フレドリクソン(Fredrickson, B)が提唱した概念です。

日々の生活の中でポジティブ感情をたくさん持っているとストレスが軽減され、健康度が上がるといわれています。

気分評定

働く女性を対象に主観的幸福感というものを測定し、その得点によって高い幸福度を持つグループと、そうでないグループに分けました。
ポジティブな感情は、平日と休日でさほど変わりがありません。幸福感の低い働く女性は、平日と休日のネガティブ感情が高いです。幸福感の高い人は休日と平日ともに、ネガティブ感情が低いです。つまり、ネガティブ感情の多さが幸福感の低い人の特徴で、これがワークストレスと関連があるといわれています。


主観的ストレス

努力報酬不均衡モデルというワークスストレスを評価するモデルがあります。
幸福感の高い人は、努力を多く必要としないけれど、逆に報酬はたくさん持っている。そして、オーバーコミットメントがなく、過剰に取り組む必要がないということがわかります。またCES-D(抑うつ評価尺度)についても幸福度の低い人は高いといえます。


主観的幸福感とコルチゾール起床時反応​​

ストレスの代表的なホルモンとしてコルチゾールがあります。平日と休日で幸福度の高い低いで、副腎皮質から出るホルモンの分泌量が違うという結果が出ています。こちらは、なぜ幸福度の低い人は不健康なのかという説明になるのかと考えます。

平日は仕事をする日で、朝起きてだいたい30分ぐらいに一番ホルモン分泌量がピークになります。要するに、今から仕事に行くぞという、切り替えモードになります。
幸福度の高い人は仕事に行くぞということでコルチゾールが一時的に上がりますが、幸福度の低い人はあまりコルチゾールが上がりません。

特徴的なのは休日の時です。幸福度の低い人は、コルチゾールの分泌量が、休日と平日でほとんど変わりません。つまり、生理学的な反応として休日が休日になっていないといえます。
ワークストレスを客観的に測定した研究より、幸福度の高い人は非常にコルチゾールの分泌が低く、幸福度の低い人は、平日と休日の体の反応がほとんど変わらないとこういうことがわかります。
ここまでは、ポジティブ心理学についての基礎的な研究についてご紹介しました。


講師


津田彰 先生(公認心理師、臨床心理士、医学博士)

【プロフィール】
健康・医療心理学、産業・組織心理学、ポジティブ心理学などをご専門とされています。
心理学に関して数多くの著書を執筆、ご講演・論文の発表もされており、多くの賞を受賞されています。
2021年4月 久留米大学 名誉教授
2021年4月 帝京科学大学 医療科学研究科 教授(現在に至る)
2022年4月 久留米大学 医学部 客員教授 (久留米大学)




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