労働衛生の「3管理」と「5管理」~産業保健活動の基礎管理~
労働衛生と産業保健という用語は、微妙な使い分けはあるもののほとんど同じ意味で用いられています。法令では「労働衛生」という用語が一般的に用いられます。この記事では、労働衛生に関する「3管理」と「5管理」の基本的な概念を説明します。
目次
1.労働衛生の「3管理」「5管理」とは
2.作業環境管理
3.作業管理
4.健康管理
5.労働衛生教育
6.統括管理
7.まとめ
1 労働衛生の「3管理」「5管理」とは
労働衛生の3管理は、「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」の3つの要素を管理することをいいます。労働衛生の5管理ではさらに「労働衛生教育」「統括管理」が追加されます。
事業場の特性や現状に合わせて、優先順位をつけた取り組みが求められます。
2 作業環境管理
①作業環境管理
作業環境管理とは、職場の有害因子を把握しできるだけ良好な状態で管理していくことです。粉塵、放射線、化学物質、騒音などの有害因子のある作業場では、その有害性、取扱量、作業場所への発散状況などを調べ、必要な措置を講ずる必要があります。
作業環境管理に関わる根拠法令には、労働安全衛生法や作業環境測定法などがあります。そのほか、温度、湿度、照度などの環境要因も測定や対策が必要です。
②作業環境測定
ⅰ作業環境測定の実施
作業環境測定とは、労働安全衛生法や作業環境測定法に基づいて、職場の作業環境を調査し、必要な対策を講じるための活動です。安衛法施行令第21条で10種類の作業場では、作業環境測定が義務付けられています。
測定は「作業環境測定基準」に従って実施し、結果を法定の期間保存する必要があります。
ほとんどの場合、作業環境測定は、外部機関に委託され専門の作業環境測定士によって行われます。
ⅱ作業環境測定結果の評価
作業環境測定結果は、「作業環境評価基準」に基づいて評価されます。
作業環境は以下の3つの管理区分に分類され、それぞれ異なる対応が求められます。作業環境測定士は、測定結果と評価を「作業環境測定結果報告書(証明書)」としてまとめ、事業者に提出します。
ⅲ措置の実施
事業者は、作業環境測定結果報告書に基づいて、安全衛生委員会等でその内容を共有・確認し、対応について検討したうえで適切な対応を実施します。対応は管理区分に応じて異なり、それぞれの状態に応じた改善措置が求められます。
③作業環境管理における産業看護職の役割
職場環境、作業環境を把握することは労働者が安全で健康に働くためには必要不可欠です。
産業看護職は職場巡視の機会や面談等、日々の活動においても職場環境や作業環境について情報収集し職場環境の改善に取り組むことが求められます。
安全衛生委員会に報告される作業環境測定の結果も把握しておくようにしましょう。問題がある場合には、衛生管理者・産業医と連携して必要な対策を検討しましょう。
3 作業管理
①作業管理とは
作業管理は、作業方法や作業時間の改善、適切な保護具の使用等により、有害因子による影響や作業負荷を軽減し職業性疾病を予防する取り組みです。作業管理は、労働者ひとりひとりの作業条件に着目し、それぞれの状況に合わせた対策を実施します。
②作業管理の具体的な方法(例)
作業方法の改善
・ 材料や道具を使用しやすい場所に配置する
・ 人や物の移動を少なくする
・ 体格にあった椅子や机を使用する
作業姿勢の改善
・ 中腰、ひねり姿勢を避けた作業方法を周知する
・ 職場巡視や健康教育の際に正しい作業姿勢を教育・周知する
作業時間・労働時間の適正化
・ 小休憩や作業休止時間を設ける
・ 休息を適切にとれるよう配慮する
・ 生活リズムを保てるようなシフトを組むよう配慮する
・ 休憩設備や場所を確保する
保護具の適正使用
・ 保護具を適切に使用する
・ 保護具の管理・メンテナンスを実施する
・ 適切な保護具を選択する
作業管理の実践
・ 研修の実施やマニュアル作成、掲示などを行い、正しい作業方法を周知する
・ 職場巡視の機会を利用し、作業管理の視点を紹介し改善する
③作業管理における産業看護職の役割
産業看護職の職務においては、職場巡視や社員との面談などの際に、ひとりひとりの作業内容や作業方法などに目を向け作業管理の視点を持つことも重要です。
労働者が正しい情報を取得し自ら行動がとれるような環境づくりや働きかけをすることが産業看護職には求められます。
4 健康管理
①健康管理とは
健康管理とは、職業性疾病の予防や労働者の健康の保持増進を目的とした取り組みのことです。健康管理は、健康診断の実施や事後措置、メンタルヘルス対策、過重労働対策、治療と仕事の両立支援など産業保健活動全般を指します。
②健康管理における産業看護職の役割
事業場内の産業保健活動を推進することが、職場の健康管理を推進することにつながります。産業看護職には、職場環境や労働者の特性、健康状態、労働条件等などを総合的にみたアプローチが求められます。これらの取り組みを推進していく際には、産業医や職場の担当者、労働者、上司などそれぞれが自身の役割を認識して取り組めるよう、調整役となることも重要です。
5 労働衛生教育
① 労働衛生教育とは
労働衛生教育とは、労働者の健康に関する様々な問題を予防し改善するための教育です。労働者本人に対して実施するものや、人事担当者や管理監督者など労働衛生に関する業務に従事する者に対して実施するものがあります。
② 安全衛生教育の法令による規定
労働衛生教育は、安全衛生教育に含まれます。安全衛生教育は、安全教育と衛生教育に分けられますが両方の内容が含まれており同時に実施することもあります。
安全衛生教育は、法令で義務付けられているもの、法令で努力義務とされているもの、法令で規定されておらず自主的に行うものに分けられます。
③労働衛生教育における産業看護職の役割
労働衛生教育のなかには、産業看護職が講師となり実施するものもあります。
法令で義務付けられているものはもちろん、自身の事業場の実態に合わせて必要な労働衛生教育を企画・提案したり、衛生委員会などの機会を活用して検討したりすることが求められます。
6 統括管理
① 統括管理とは
統括管理とは、労働衛生におけるそれぞれの活動(作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育)が効果的に実施できる体制を構築し管理することです。これには、安全衛生管理体制の構築や、目標や計画の策定、実施の評価、見直しなどが含まれます。
総括安全衛生管理者や事業者が主導しこれらの活動を統括します。具体的な対策の決定や進め方については衛生委員会などを通じて十分に協議し、事業場内の関係者と連携することが重要です。
② 産業看護職の役割
産業看護職は、統括管理において調整者としての役割を担います。
産業看護職は、事業場側と労働者側の双方の視点から問題を理解し、それに基づいて実践的な解決策を提案することが求められます。また、衛生管理者、産業医、各部門の責任者などと密接に連携し効果的なコミュニケーションと調整を行うことが期待されます。これらの協働は、組織全体の安全衛生活動の向上に不可欠です。
7 まとめ
「3管理」や「5管理」は労働衛生や産業保健活動の基本要素です。各事業場は、業種や具体的な作業内容、直面している課題に応じて、どの活動に重点を置くかリスクを想定しつつ優先順位を決めて取り組む必要があります。
産業看護職には、自身の事業場の安全衛生活動に関連する法令を正確に理解したうえで、事業場のリスクやニーズに基づいた適切な対策を講じることが求められます。
■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■監修:難波 克行 産業医
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■監修医師のご紹介
産業医 難波 克行 先生
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医
メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆
YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信
代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』
■参考文献
岡庭 豊(2019)職場の健康が見える 産業保健の基礎と健康経営.医療情報科学研究所.
五十嵐 千代(2023)必携 産業保健看護学-基礎から応用・実践まで.公益社団法人日本産業衛生学会.