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LGBTQ+とは~産業保健の立場から考える性の多様性~

近年、ダイバーシティ経営が推進されており、「多様な背景を持つ人」が働きやすい職場づくりに多くの企業が取り組んでいます。LGBTQ+を含む性的マイノリティに対する理解が必要であるという認識を持つ企業も増えてきていますが、LGBTQ+当事者の多くは困りごとを抱えている現状があります。

日本の人口の約10%がLGBTQ+当事者であるといわれていますが、約9割のLGBTQ+当事者が職場の誰にもカミングアウトしていないと回答しています。(「職場におけるダイバーシティ推進事業」調査結果より)
産業保健スタッフのなかでも、LGBTQ+当事者からの相談を受けた経験がある方も、そうでない方もいらっしゃると思いますが、当事者から相談を受けたことがなくとも「目に見えない困りごと」を抱えた従業員がいる可能性は高いといえます。

本記事では、LGBTQ+について正しい知識を身に着け、産業保健スタッフとしてどうあるべきかを考えます。


目次

1.LGBTQ+とは
2.性的指向・性自認とは
3.LGBTQ+と職場での問題
4.性の多様性に係る職場の取り組み
5.まとめ


1. LGBTQ+とは


LGBTQ+とは、性のあり方には様々な形があるということを示す総称であり、性的マイノリティに含まれます。下記の頭文字から作られています。

L:Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)

G:Gay(ゲイ、男性同性愛者)

B:Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)

T:Transgender(トランスジェンダー、出生時に法的・社会的に割り当てられた性別や、その性別に期待されるあり方とは異なる性別で生きている人・生きたい人)

Q:Queer(クィア、規範的な性のあり方以外のセクシュアリティ。もともとは「奇妙な」という意味合いで、差別的・侮蔑的文脈で使われていた言葉を、当事者自身が逆手にとって使うようになった言葉)、Questioning(クエスチョニング、自らの性のあり方について特定の枠に属さない人、わからない人、決めたくない人)

+:「L・G・B・T・Q」に当てはまらない多様な性を表現している



2. 性的指向・性自認とは


1)性的指向

恋愛または性愛がいずれの性別を対象とするかをいうものです。 人によって、性的指向のあり方は様々であり、異性を好きになる人、同性を好きになる人、相手の性別を意識せずにその人を好きになる人などがいます。 また、誰にも恋愛感情や性的な感情を持たない人もいます。

2)性自認

自己の性別についての認識のことをいいます。
生物学的・身体的な性、出生時の戸籍上の性と性自認が一致しない人を「トランスジェン ダー」といい、生物学的な性が男性で性自認が女性、生物学的な性が女性で性自認が男性といった場合があります。また、身体的な性に違和感を持つ人もいます。この状態に対して、医学的には「性同一性障害」と診断される場合もあります。※ 性自認は、「性同一性」といわれることもあります。

3)性的指向・性自認についての理解

性的指向や性自認は、矯正したり治療したりするものでもなく、個人の尊厳に関わる問題として尊重することが重要です。

周囲の人が、そのことを理解して接するだけでも、LGBTQ+当事者の生きにくさは相当改善すると言われています。

■SOGIとは

性的指向(sexual orientation)と性自認(gender identity)の頭文字 をとった略称です。この表現は、少数・多数に関係なく誰もがそれぞれのセクシュアリティを持っているという考え方に基づく概念です。

■Ally(アライ)とは

朋友、味方、同盟者という意味です。LGBTQ+当事者のことを理解、支援しようとし、差別や偏見をなくすための行動をする人のことをいいます。



3. LGBTQ+と職場での問題


職場におけるマイノリティは、育児介護に携わる人、持病を抱えている人、障害者、外国人等様多岐にわたります。なかでもLGBTQ+は、「目に見えない存在」であり、かつ「業務の遂行に特別な配慮を必要としない」点が特徴的です。
そのため、特別視せず理解を示すということが最も重要です。
ただし、実際にはLGBTQ+当事者は職場において困りごとを抱えていることは少なくありません。そしてその困りごとは、周囲の人には見えにくく深刻化しやすいという問題があります。

1)カミングアウトとアウティング

■カミングアウト

LGBTQ+当事者が、自身の性的指向や性自認について他者に伝えることを「カミングア ウト」といいます。カミングアウトするかどうかは、本人の自由意志によるべきであり、カミングアウトしようとするのを止めたり、逆にカミングアウトを強制することは不適切です。カミングアウトを受けた場合は、落ち着いて話を聞き、受けとめることが大切です。

多くのLGBTQ+当事者は、自身の性的指向や性自認を他人に知られることで、差別やハラスメントを受けるかもしれないという不安を抱えています。さらに職場では、異動や 昇進できないなどの不利益を被ることにつながるかもしれないという恐れから、カミングアウトをしない(できない)ケースが多いのが現状です。
職場では、結婚しているか、子供がいるか等プライベートの話をする機会が多くあります。LGBTQ+当事者は、そのような場面で自身の性的指向・性自認を偽って会話をしなければならず、ストレスにつながります。また、プライベートの話をすることができないことで人間関係を築きにくくなり、職場で孤立しやすいという問題もあります。

■アウティング

本人の同意なく、その人の性的指向や性自認に関する情報を第三者に暴露することを「アウティン グ」といいます。性的指向や性自認といった機微な個人情報を、意に反して明かされることは、本人にとって非常に苦痛となる可能性があります。
善意から、意図せずアウティングしてしまうこともあるため注意が必要です。例えば、職場での困りごとなどを相談された際には、誰に伝えているのか、誰かに伝えてよいのかを確認しておくとも重要です。

2)トランスジェンダーが抱える困難

LGBTQ+のなかでもトランスジェンダーは、自認する性別として振る舞い仕事をしたいと考えているにも関わらず、それをすることができないことから、困りごとを抱えやすいといわれています。

書類等の性別欄の記入や、本名から連想される性別と見た目の不一致などから、望まないカミングアウトやアウティング、差別につながる事例もあります。

トイレや更衣室、健康診断の受診など、物理的な男女の区分に遭遇しやすい場面もあり、ストレスを抱えやすくなります。

性別適合等手術やホルモン療法を希望する場合も、休暇を取得しづらく、 働き方の幅が狭くなったり、手術のタイミングで退職を余儀なくされる場合も多くあります。仮に休暇を取得して性別適合等手術を受けられたとしても、働きながら性別移行するためには、職場のサポートが必要です。

3)ハラスメント

LGBTQ+当事者は、性自認や性的指向を理由とした差別的、不快な言動を見聞きしていることが多くあります。
このような言動は、心身の不調や離職につながる原因となり、ハラスメントに該当することがあります。性的指向・性自認を理由としたハラスメントは、「SOGIハラスメント」ともよばれています。
特定の相手に向けられたものではない言動であっても、 周囲の誰かを傷つけてしまう可能性があります。 カミングアウトを行っていない人がいること等にも留意し 、こうした言動にも注意することが重要です。

■パワハラ

アウティングは、パワハラに該当する可能性があります。

また、性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことは、パワハラに該当する場合があります。「ホモ」「オカマ」「オネエ」「レズ」といった表現は、LGBTQ+当事者に対する蔑称であるといわれています。悪意はなくとも、LGBTQ+当事者を傷つける表現となる場合があるので注意が必要です。

■セクハラ

職場におけるセクハラには、同性に対するものも含まれます。



4. 性の多様性に係る職場の取り組み


1)職場における取り組みを推進する意義

LGBTQ+に関する取り組みを推進することは、下記のような効果があります。

  • 多様な人材が活躍できる職場環境の整備により、組織活性化、人材確保につながる
  • 性的指向や性自認に理解があると性的マイノリティ当事者が感じられることで、困りごとに対する相談をしやすくなり、職場環境の改善につながる
  • 性的指向や性自認に対する無理解は、ハラスメントとなる可能性がある。人事労務上不適切な対応をとってしまうと、人材の流失、訴訟リスク、企業イメージの毀損につながるため、対策を講じることはリスク管理となる

LGBTQ+当事者は多くの場合、自身の性的指向や性自認を職場で明かしていないため、従業員からのニーズがあれば取り組もうという発想では、事業場の対応が実態に追いつかないおそれがあります。社会全体の気運や周囲の企業の動向に注意を払って、事業場の姿勢を検証してみることが重要です。

2)職場における取り組みの事例

LGBTQ+に関する取り組みには、下記のようなものがあげられます。

  • 方針の策定・周知や推進体制づくり
  • 研修などの啓発活動による理解の促進
  • 相談体制の整備
  • 公正、公平な採用や雇用管理の取り扱い
  • ハラスメント・アウティングの防止
  • トイレや更衣室の利用、健康診断の受診への配慮
  • 通称名の使用、服装規定、性別の取り扱いへの配慮
  • ホルモン治療、性適合手術への対応
  • 職場にアライを増やす取り組み
  • 同性パートナーを配偶者とみなした福利厚生の整備

取り組みやすさや、従業員のニーズを踏まえ、事業場の実情にあった取り組みを検討・実施することが重要です。
LGBTQ+当事者の困りごともひとりひとり異なります。LGBTQ+当事者だけでなく全従業員が、理解を深めお互いが働きやすい環境を整備することが必要です。



5. まとめ


誰もが働きやすい職場環境づくりが求められるなか、LGBTQ+に対する取り組みへの関心も高まっています。
しかし、LGBTQ+当事者が抱える困りごとは表面化しづらく、無意識のうちに当事者が傷ついていたり、働きづらさを抱えていることが多いのが現状です。

性的指向や性自認に関することは、直接的に業務パフォーマンスに影響はありません。
ただし、LGBTQ+当事者が働く環境において困りごとを抱えやすく、心身の不調を来たす原因となることもなるため、性的指向や性自認に関らず、誰もが働きやすくなるための環境づくりや体制づくりについて、日頃から意識することが重要です。

LGBTQ+当事者から相談を受けた場合はもちろん、相談を受けていない場合も、「性の多様性」を理解し受け入れること、目に見えない困りごとを抱えている当事者がいるかもしれないということを念頭に置いて、組織や従業員ひとりひとりと向き合う姿勢が求められます。

産業保健スタッフには、性的自認、性的指向について正しい理解をもつこと、LGBTQ+を特別視するのではなく、性の多様性を尊重し、誰もが働きやすくなるためには何ができるかという視点を持ち、事業場にあった対策を関係者や従業員と検討し対応することが求められます。



■執筆:さんぽLAB 運営事務局 保健師
■参考資料
1) 厚生労働省受託事業|令和元年度職場におけるダイバーシティ推進事業報告書
2) 厚生労働省都道府県労働局|性的マイノリティに関する企業の取り組み事例のご案内
3) 埼玉県|企業向けハンドブックLGBTQが働きやすい職場づくりのために
4) 厚生労働省|法令で義務付けられたハラスメント防止措置について
5) 日本産業保健法学会|判例解説多職種ディスカッション「経済産業省LGBTQ最高裁判決」


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