「ハラスメント対策」チェックリスト/解説記事/手順書
ハラスメントとは、相手が不快に感じる言動や行動による嫌がらせのことを指します。
これにはさまざまな形がありますが、職場では特に、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、妊娠や出産、育児休業や介護休業などを理由とするハラスメントなどがよく問題となります。
近年、職場のハラスメントがメンタルヘルス不調を引き起こす原因となっていることが問題視されています。2020年には、職場でのパワーハラスメントを防ぐための措置を事業主に義務付ける「労働施策総合推進法」が改正されました。また、セクシュアルハラスメントや、妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメントに関する対策が「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」で強化されました。事業主は職場のハラスメント防止体制を整え、適切な対策をとる義務があります。
今回は、職場でのパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメントについて、事業場が行うべき対策について説明します。
STEP 1 チェックリストで職場の課題を可視化
STEP 2 解説を読んで根拠や活用できるコンテンツをチェック
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり
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■ハラスメントがもたらす問題
■職場におけるハラスメントとは
■ハラスメントの防止と対応-事業者が講ずべき対策
■まとめ
■ハラスメントがもたらす問題
職場におけるハラスメントは、個人としての尊厳や人格を不当に傷つける、決して行ってはならない行為です。ハラスメントがもたらす問題としては下記のようなことがあげられます。
・労働者の意欲低下による職場の環境悪化
・職場全体の生産性の低下
・労働者の健康状態の悪化
・休職や退職に繋がる可能性
・経営的な損失 等
■職場におけるハラスメントとは
職場で問題となるハラスメントとして、「パワーハラスメント」「セクシュアルハラスメント」「妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメント」が挙げられます。それぞれのハラスメントについて、詳しく理解していきましょう。
▶職場におけるハラスメントの対象
職場におけるハラスメントは、オフィス内だけでなく、客先、現場、出張先、社内、移動中や、取引先との会議、接待の場、勤務時間外の社交の場面など、さまざまな場所や状況で起こり得ます。対象となる「労働者」には、正社員だけでなくパートタイムや契約社員などの非正規雇用者も含まれます。また、派遣社員に関しては、派遣元と派遣先の双方が対策をとる必要があります。さらに、顧客や取引先、求職者やインターンシップ参加者、教育実習生なども保護の対象です。
【パワーハラスメント】
▶職場におけるパワーハラスメントとは
職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる、以下の3つの要素を全て満たす行為を指します
(1)優越的な関係を背景とした言動
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
(3)労働者の就業環境が害されるもの
これらの3つの要素について詳しくみていきましょう。
(1)優越的な関係を背景とした言動
行為者が特別な立場、職位、知識、経験などを持っているために、被害者が行為者に対して抵抗したり拒絶したりすることが困難である関係性(優越的な関係)にある場合を指します。優越的な関係には、上司だけではなく、同僚や後輩、部下なども含まれます。
例)
・上司や上位者など、職務上の地位が上位からの言動である場合
・行為者が同僚や部下であっても、その人のほうが経験や知識が豊富なため、業務遂行にあたってその人の協力が必須であるような状況の場合
・同僚や部下からの集団による行為で、これに抵抗したり拒絶したりすることが困難である場合
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
社会通念に照らして、その言動に業務上の必要性がなく、職場での言動としてふさわしくないものを指します。
例)
・業務上明らかに必要のない言動
・業務の目的を大きく逸脱した現状
・業務を遂行するための手段として不適当な言動
・該当行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
(3)労働者の就業環境が害されるもの
暴力や、人格や名誉を傷つけるような言動などにより、身体的または精神的な苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため、職場での能力の発揮に重大な悪影響や支障が生じるもののことを指します。
例)
・暴力を振るったり、何度も大きな声で怒鳴ったり、厳しい叱責をしつこく繰り返すなどの行為
・長期にわたる無視や、能力に相応しくない仕事を与え、就労意欲を低下させる行為
▶判断基準
判断にあたっては、同様の状況で同じ言動を受けた場合に、一般の労働者(平均的な労働者)がどう感じるかを基準として判断します。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワーハラスメントには該当しません。
▶パワーハラスメントに関する法令
2012年、厚生労働省が「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」を公表し、パワーハラスメントに対する基本的な定義が設けられました。しかし、その時点ではパワーハラスメント防止に特化した法律は制定されていませんでした。
その後、2019年6月に改正された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」において、パワーハラスメントに対する具体的な対策を規定し、2020年6月から事業主にはパワーハラスメント防止措置を行う義務が課せられるようになりました。
・事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
・事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
▶労災認定との関連
精神障害に関連した労働災害の請求件数が増加していることを背景に、1999年に労働省(現・厚生労働省)から「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」が公表されました。さらに、審査に要する期間の短縮を目指して、2011年には「心理的負荷による精神障害の認定基準」が発表され、一般の人々にも理解しやすい基準へと変更されました。
2020年6月、パワーハラスメント対策が法制化されたことを受け、労災認定の基準にもパワーハラスメントが明示的に含まれるようになりました。
【セクシュアルハラスメント】
▶職場におけるセクシュアルハラスメント
職場におけるセクシュアルハラスメントとは、職場内で起こる性的な言動が原因で、そのような行為に応じない労働者の労働条件が不利になる、または、性的な言動自体が就業環境を損なうことを指します。
性的な言動とは、性的な事柄に関する質問、性的な情報や噂の拡散、性的な冗談やからかい、執拗な食事やデートへの誘い、個人的な性体験の話、性的関係の強要、不必要な身体的接触、わいせつな画像の配布や掲示、強制的なわいせつ行為などが含まれます。
このような行為は、事業主や上司、同僚だけでなく、顧客や取引先、病院では患者やその家族、学校における生徒など、さまざまな人々によって行われる可能性があります。
加害者や被害者には男性も女性も含まれます。また、異性間だけでなく同性間の行為もセクシュアルハラスメントに当たります。被害者の性的嗜好や性自認は関係なく、「性的な言動」が行われれば、それはセクシュアルハラスメントとみなされます。
▶セクシュアルハラスメントの分類
セクシュアルハラスメントは大きく「対価型」と「環境型」に分類されます。
(1)対価型セクシュアルハラスメント
労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減給、 労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外等、客観的に見て不利益な配置転換などの不利益を受けること
典型的な例)
・ 事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、その労働者を解雇した
・ 出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、その労働者について不利益な配置転換をした
・営業所内において事業主が日頃から労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、その労働者を降格させた
(2)環境型セクシュアルハラスメント
労働者の意に反する性的言動により 労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な影響が生じるなどその労働者が就業する上で見過ごせない程度の支障が生じること
典型的な例)
・事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、その労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下している
・同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、その労働者が苦痛に感じて仕事が手につかない状況になっている
・労働者が抗議をしているにもかかわらず、同僚が業務に使用するパソコンでアダルトサイトを閲覧しているため、それを見た労働者が苦痛に感じて業務に専念できない
▶判断基準
セクシュアルハラスメントの状況は多様であるため、個別の状況に応じて判断する必要があります。一般的には、意に反する身体的接触によって強い精神的苦痛を被る場合には、1回でも就業環境を害するものになり得ます。判断は「平均的な労働者の感じ方」を基準として行われます。
▶セクシュアルハラスメントに関する法令
「雇用の分野における男女の均等な機会及び接遇等に関する法律(;男女雇用機会均等法)」では事業主に対して職場におけるセクシュアルハラスメント防止のための雇用管理上必要な措置の実施を義務付けています。
また、セクシュアルハラスメント防止対策について、事業主に相談をしたこと等を理由とする不利益な取り扱いの禁止や、自社の労働者が他社の労働者にセクシュアルハラスメントを行った場合や被害を受けた場合の措置に関する協力の条項が追加されました。
・事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
・事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱い
をしてはならない。
・事業主は、他の事業主から当該事業主の講ずる第1項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。
【妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメント】
▶職場における妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメント
妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメントは、妊娠や出産、育児休業、介護休業の取得などを理由に、上司や同僚から不当な言動を受け、労働者の就業環境が悪化することを指します。
このようなハラスメントは、妊娠や出産をした女性労働者、または育児休業や介護休業を申請した、あるいは取得した男女の労働者に対して発生します。ただし、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて業務上必要とされる行為はハラスメントには該当しません。
また、妊娠・出産・育児を行う女性労働者に対して行われるものをマタニティハラスメント(マタハラ)、育児を行う男性労働者に対して行われるものをパタニティハラスメント(パタハラ)、働きながら介護を行う労働者に対して行われるものをケアハラスメント(ケアハラ)と呼ぶこともあります。
▶職場における妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメントの分類
「職場における妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメント」には、制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」があります。
(1)制度等の利用への嫌がらせ型
下記制度または措置(制度)の利用に関する言動により就業環境が害されるもの(図1)
防止措置が必要となるハラスメントとして、下記があげられます。
①解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
②制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの
③制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの
例)
・育児休業の取得について上司に相談したところ「男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない」と言われ、取得を諦めざるを得ない状況になっている
・育児休業の取得について周囲に伝えたところ、同僚から「迷惑だ。自分なら取得しない。あなたもそうするべき」と言われて、苦痛に感じた
・上司や同僚が「労働時間の制限がある人には大した仕事をさせられない」と繰り返し発言し、もっぱら雑務のみを担当させられている状況が続いており、就業する上で看過できない程度の支障が生じている
・上司や同僚が「自分だけ短時間勤務をしているなんて、周囲の迷惑を考えていない」と繰り返し発言し、就業する上で看過できない程度の支障が生じている
(2)状態への嫌がらせ型
女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等に関する言動により就業環境が害されるものをいいます。対象事由は下記のようなものがあげられます。(図2)
防止措置が必要となるハラスメントとして、下記があげられます。
①解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
①妊娠等したことにより嫌がらせ等をするもの
例)
・上司に妊娠を報告したところ「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた
・上司や同僚が「妊婦はいつ休むかわからないから仕事を任せられない」と繰り返し発言し、仕事をさせない状況となっており、就業する上で看過できない程度の支障が生じている。
・上司や同僚が「妊娠するなら忙しい時期を避けるべきだった」と繰り返し発言し、就業する上で看過できない程度の支障が生じている。
▶妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメントに関する法令
男女雇用機会均等法と育児・介護休業法の改正に伴い、2017年より事業主に対して、妊娠・出産・育児休業などに関するハラスメント防止のための雇用管理上必要な措置の実施が義務づけられました。また、妊娠・出産・育児・介護休業等の申出や取得を理由とする解雇等の不利益な取扱いも禁止しています。
・事業主は、職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
・事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
・事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その 他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
・事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
【その他のハラスメント】
▶カスタマーハラスメント
カスタマーハラスメントは、企業や個人事業主が顧客や取引先から受ける不当な要求や言動を指します。カスタマーハラスメントのうち、パラーハラスメントやセクシュアルハラスメントについては上述の法令に則って対応します。また、下請け業者への不当な扱い(下請けいじめ)は独占禁止法;独禁法や下請代金支払遅延等防止法下請法などで禁止されています。
■ハラスメントの防止と対応-事業者が講ずべき対策
ハラスメントを防止するために、事業主が雇用管理上講ずべき措置として、以下の通り厚生労働大臣の指針に定められています。事業主は、これらの措置を必ず講じなければなりません。
事業主及び労働者の責務について、職場におけるハラスメント防止のために、事業主、労働者に対して以下の規定が定められています。
▶事業主、労働者の責務
【事業主の責務】
・ 職場におけるパワーハラスメントを行ってはならないこと等これに起因する問題に対する労働者の関心と理解を深めること
・ その雇用する労働者が他の労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うよう研修を実施する等、必要な配慮を行うこと
・ 事業主自身(法人の場合はその役員)がハラスメント問題に関する関心と理解を深め、労働者(※)に対する言動に必要な注意を払うこと
【労働者の責務】
・ハラスメント問題に関する関心と理解を深め、他の労働者(※)に対する言動に注意を払うこと
・事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること
※ 取引先等の他の事業主が雇用する労働者や、求職者も含まれます。
【事業主が講ずべき措置のポイント】
▶①事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
・ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発
職場におけるハラスメントの内容及び職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の事業主の方針等を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発します。
・行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発
職場におけるハラスメントに係る言動を行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発します。
また、妊娠・出産・育児・介護に関する制度を利用しやすい職場風土を作るため、全労働者に対して制度への理解を深めてもらう取り組みも重要です。
▶②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
・相談窓口の設置と周知
相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知します。例えば、相談に対応する担当者を定め、相談を受け付けるための仕組み、相談対応の手順などを定めて、利用方法を周知します。外部機関に相談対応を委託する場合もあります。
相談窓口を形式的に設けるだけではなく、実際に機能するような窓口を設ける必要があります。そのため、労働者に対して窓口を周知し、労働者が利用しやすい体制を整備しておくことが重要です。
また、相談は面談だけでなく、電話、メールなど、複数の方法で受けられるように工夫します。面談の結果、必要に応じて、人事担当者や相談者の上司と連絡を取る、産業保健スタッフと連携するなど、相談の内容や状況に応じて、適切な対応が取れるよう、フォロー体制を整えておく必要もあります。
・相談に対する適切な対応
相談窓口担当者が、相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにします。
相談には、言動を直接受けた労働者からの相談だけでなく、それを把握した周囲の労働者からの相談も含まれます。被害を受けた労働者が萎縮して相談をためらってしまうこともあるため、相談に来た人の心身の状態や、その時の本人の感じ方などに配慮して対応することが必要です。
ハラスメントが実際に起きている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応するようにします。
また、相談窓口の担当者が、相談の内容に応じて、人事部門などと適切に連携を図ることができる仕組みを構築します。事業場内の対応ルールに基づいて、相談対応についてのマニュアルを作成し、相談窓口の担当者や、人事部門の担当者などに対する研修などを実施します。
・相談者へのフィードバック
相談を受けて終わりにすることなく、事業主としてどのように判断したのか、今後、組織としてどのように対応していくのかなど、事業場内の対応の途中経過や結果について、適宜、相談担当者から相談者本人にフィードバックするようにします。
▶③職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
・事実関係の迅速かつ正確な確認
相談窓口の担当者、人事部門または専門の委員会などが、事業場内のハラスメント対応方針に従って、相談者・行為者の双方から事実関係を迅速かつ正確に確認します。
また、事実の確認が十分にできない場合には、第三者からも事実関係を聞き取ることがあります。必要に応じて、取引先の労働者に事実確認を行うこともあります(セクシュアルハラスメントの場合は、協力を求められた事業主には、これに応じる努力義務があります)。
事案が発生してから、誰がどのように対応するのか検討していては対応が遅れてしまいます。相談窓口と、個別事案に対応する部署との連携や対応手順をあらかじめ明確に定めておきます。
また、被害の継続や拡大を防ぐため、相談があったら迅速に事実確認を行います。ハラスメントがあったかどうか、ハラスメントに該当するかの認定に時間を割くのではなく、問題となっている言動が直ちに注意され、良好な就業環境を回復することが優先されます。
・被害者に対する適正な配慮の措置の実施
ハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮の措置を適正に行います。
例えば、被害者と行為者の関係改善に向けた援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の不利益の回復、管理監督者や産業保健スタッフによる被害者のメンタルヘルス不調への相談対応などを行います。
・行為者に対する適正な措置の実施
ハラスメントが生じた事実が確認できた場合には、速やかに行為者に対する措置を適正に行います。
例えば、就業規則などに基づき、行為者に対して必要な懲戒またはその他の措置を行うこと、状況に応じて被害者と行為者の関係改善に向けた援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者等の謝罪などの措置を行います。
ハラスメントの事実が確認されても、往々にして問題を軽く考えたり、話が広がるのを避けるため内密に処理しようとしたり、個人の間の問題として当事者の解決に委ねようとしたりする事例が見られます。しかし、こうした対応は問題をこじらせ、解決をより難しくすることになりかねません。ルールに基づいた公正な対応を行うことが重要です。
・再発防止措置の実施
改めて職場におけるハラスメントに関する方針を周知・啓発する、研修・講習を行うなどの措置を講ずる必要があります。なお、職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、再発防止に向けて、啓発や研修などを改めて実施するなどの措置を講ずる必要もあります。
また、必要に応じて、取引先の事業主に再発防止に向けた措置に協力を求めることもあります(セクシュアルハラスメントの場合は、協力を求められた事業主には、これに応じる努力義務があります)。
妊娠・出産・育児・介護休業に関するハラスメントの原因や背景として、業務の偏りが生じてしまう業務体制の問題がある場合があります。周囲の労働者の業務の偏りを軽減するような措置や、業務の点検や効率化などの措置を考慮することも重要です。
また、職場におけるハラスメントに関する相談が寄せられた場合は、たとえハラスメントが生じた事実が確認できなくても、これまでの防止対策に問題がなかったかどうか再点検し、改めて周知を図りましょう。
▶④併せて講ずべき措置
・当事者等のプライバシー保護のための措置の実施と周知
ハラスメントに関する相談者・行為者等の情報はその相談者・行為者等のプライバシーに属するものとなります。相談への対応又はそのハラスメントに関する事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知する必要があります。
なお、このプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれます。
・相談、協力等を理由に不利益な取扱いをされない旨の定めと周知・ 啓発
労働者がハラスメントに関し、事業主に対して相談をしたことや、事実関係の確認等の事業主の雇用管理上講ずべき措置に協力したこと、都道府県労働局に対して相談、紛争解決援助の求め、調停の申請を行ったこと又は都道府県労働局からの調停会議への出頭の求めに応じたことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する必要があります。
・業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者等の実情に応じた必要な措置
職場における妊娠・出産・育児・介護休業等に関するハラスメントについては、その原因や背景となる要因を解消するための措置が含まれます。
▶ハラスメントに対する相談・苦情の対応の流れの例
厚生労働省のパンフレット「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等関するハラスメント対策は事業主の義務です!」に記載されている、相談・苦情の対応の流れの例を参考に、下図に示します。
「苦情相談窓口」や「ハラスメント対策委員会」の設置や、対応の流れ、各担当者の役割分担などについては、企業ごとに社内ルールを決めておく必要があります。
■まとめ
近年、様々なハラスメントが問題となっています。ハラスメントは、職場環境を悪化させるだけではく、労働者の離職や心身の健康問題の発生の原因となります。ハラスメントで悩んでいる労働者がいる、ということを重く受け止め、適切な対策を行うことが重要です。
職場でのハラスメント対策は、人事労務等によるマネジメント部門が取扱う問題ではありますが、産業保健スタッフは、ハラスメントに関連した心身の不調者の対応をする機会が想定されます。
事業場内のハラスメント相談窓口の利用方法や、社内のハラスメント相談対応の流れを把握しておき、必要に応じて連携できる準備をしておきましょう。
ハラスメントのない職場づくりのためにも、産業保健スタッフは労働者の心身の健康に影響を及ぼすことを認識した上で、人事労務等、担当部門と連携し、適切かつ迅速な対応をすることが求められます。
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり
手順書には、体制づくりの進め方が記載されています。実際に体制整備を実施する際に、関連部署に提供し、一緒に体制づくりを進めるためにご活用ください。
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