厚生労働省は2026年7月15日、令和7年度「過労死等の労災補償状況」を公表しました。過労死等に関する労災請求件数は6,212件と前年度より1,402件増加し、過去最多となりました。特に精神障害に関する請求件数は4,958件と大幅に増加しており、職場のメンタルヘルス対策の重要性が改めて示されています。
支給決定件数は1,310件と前年度とほぼ同水準で推移している一方、精神障害の要因と考えられる出来事では、パワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)が上位に挙がりました。
本記事では、産業医・産業保健師・人事労務担当者などの産業保健スタッフ向けに、最新データから見えるメンタルヘルス課題や産業保健スタッフが押さえておきたいポイントを解説します。

5年間の経年比較でみる主な変化

産業保健スタッフが押さえておきたいポイント
ポイント①:請求件数の増加がかなり大きい
令和7年度の過労死等に関する請求件数は6,212件で、前年度比1,402件増です。令和6年度は4,810件で前年度比212件増、令和5年度は4,598件で前年度比1,112件増だったため、令和7年度は直近でも際立って増加幅が大きい年度といえます。
ポイント②:精神障害の比重がさらに高まっている
令和7年度は、過労死等全体の請求件数6,212件のうち、精神障害が4,958件です。単純に構成比でみると、精神障害が約8割を占めます。
そして、ポイント①で示した令和7年度の過労死等に関する請求件数の増加の中心も精神障害です。令和7年度の精神障害に関する請求件数は4,958件で、前年度比1,178件増です。一方、脳・心臓疾患の請求件数は1,254件で、前年度比224件増です。つまり、全体の請求件数増加1,402件のうち、多くを精神障害事案の増加が占めています。

ポイント③:支給決定件数は横ばい
令和6年度は支給決定件数が1,305件で、前年度比197件増でした。これに対し、令和7年度は1,310件で、前年度比5件増です。
そのため、令和7年度の見方としては、単に「労災認定が大幅に増えた」と言うよりも、「申請につながる件数は大きく増えているが、支給決定件数は前年度とほぼ同水準」と言えます。
ポイント④:脳・心臓疾患は“請求増・支給決定減”
令和7年度の脳・心臓疾患に関する請求件数は1,254件で前年度比224件増、うち死亡件数は303件で前年度比48件増です。一方で、支給決定件数は217件で前年度比24件減、うち死亡件数は67件で前年度と同数です。
過去5年間の脳・心臓疾患に関する労災の認定率をみると、32.8%(令和3年度)、38.1%(令和4年度)、32.4%(令和5年度)、30.7%(令和6年度)と3割を超えていましたが、令和7年度は26.8%と低下しました。
つまり令和7年度は、脳・心臓疾患については、「請求は増えているが、支給決定は減っている」という点が特徴です。長時間労働対策の重要性は引き続き変わりませんが、認定率をみると例年とは違う動きがみえます。
ポイント⑤:精神障害では、カスハラ・セクハラが上位に並んでいる
令和7年度の精神障害の出来事別支給決定件数では、「パワーハラスメント」が222件で最多です。次いで、「カスタマーハラスメント」と「セクシュアルハラスメント」がそれぞれ127件、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」が113件です。

令和6年度は、パワーハラスメント224件、仕事内容・仕事量の大きな変化120件、カスタマーハラスメント108件、セクシュアルハラスメント105件の順でした。
ここから、令和7年度は、パワハラは引き続き最多であるものの、カスハラやセクハラが増加していることが分かります。中でも、カスハラ127件のうち女性は98件、セクハラ127件のうち女性は123件と、女性が被害を受けやすい傾向が明確に表れています。
ハラスメント対応の中でも、パワハラに加えてカスハラ・セクハラを含めた包括的な対策が重要です。

出典:職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント|厚生労働省
ポイント⑥:精神障害は「長時間労働だけ」の説明では足りない
令和7年度の精神障害に関する時間外労働時間別の支給決定件数は、「20時間未満」が57件で最も多く、次いで「40時間以上~60時間未満」が55件です。
一方、令和6年度は、精神障害の時間外労働時間別支給決定件数では「100時間以上~120時間未満」が74件で最も多く、次いで「40時間以上~60時間未満」が70件でした。
このことから、精神障害の労災認定は時間外労働時間の長さだけで決まるものではなく、ハラスメントや業務内容・業務量の変化、人間関係のストレスなどのさまざまな心理的負荷要因を含めてみる必要があると整理できます。
さいごに
令和7年度の過労死等に関する労災補償状況では、請求件数が過去最多となり、とりわけ精神障害に関する請求の増加が目立ちました。一方で、支給決定件数は前年度とほぼ同水準にとどまっており、「申請につながるケースの増加」と「労災認定件数は横ばい」という特徴がみられました。
また、精神障害の要因としては、パワーハラスメントだけでなく、カスタマーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどの対人関係上の問題も大きな割合を占めています。
さらに、時間外労働が20時間未満でも労災認定が多くみられることから、精神障害は長時間労働のみで説明できるものではなく、ハラスメントや業務負荷、人間関係のストレスなどを含めたさまざまな心理的負荷要因を総合的に捉えることが重要です。
産業保健スタッフは人事と連携をしながら、長時間労働対策に加え、ハラスメント防止や相談しやすい職場づくりなど、健康障害やメンタルヘルス対策、労災の予防に向けた多面的な取り組みが求められます。
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