健康診断の種類~職域における健康診断の目的とは?それぞれの健康診断の違いについて解説
職域における健康診断は、労働衛生の3管理(作業環境管理・作業管理・健康管理)のうち、健康管理の一部として行われ、労働者の健康管理施策の基盤となります。
健康診断は目的にあわせて様々なものがあります。健康診断ごとに目的が異なりますので、知識をつけていきましょう。
【目次】
1.健康診断の目的~働ける健康状態かどうかを判断
2.一般健康診断とは
3.特殊健康診断とは
1.健康診断の目的~働ける健康状態かどうかを判断
職域における健康診断は、労働者の職業性疾病を予防し、健康でいきいきと仕事ができるよう、健康状態を把握するところから始まります。
労働者の安全と健康確保のため、健康診断に関連する法令が整備されており、健康診断の実施については労働安全衛生法第66条で定められています。
健康診断の目的として、健康度の評価や生活習慣病予防、早期発見・治療といった病気のスクリーニングがあります。ですが、特に重要な目的として、働ける健康状態かどうかを判断するためということがあげられます。
事業者は健康診断を通じて、労働者がその労働に従事できる健康状態にあるのか、安全に働くことができるのかを判断します。また、何らかの就業制限や就業配慮などの措置が必要なのかについても判断し、実施することが必要です。健康診断の情報は、医学的な情報となるため、事業者は医師の意見を聴き、必要な措置について判断をします。
2.一般健康診断とは
事業者は、労働安全衛生法第66条に基づき、労働者に対して、医師による健康診断を実施しなければなりません。また、労働者は、事業者が行う健康診断を受けなければなりません。
職域における健康診断は、大きく分けて、一般健康診断と特殊健康診断があります。
一般健康診断とは、定期健康診断をはじめ、労働安全衛生法で事業者に義務付けられた5つの健康診断のことを指します。
一般健康診断の目的は、健康障害の早期発見、就業上の措置を行うことがあげられます。
実施時期や診断項目については、一般健康診断の種類によって異なり、それぞれ法令で定められています。また、医師の判断で省略や変更が可能なものもあります。健康診断結果の記録については、5年間保存する必要があります。
【一般健康診断の概要】
健康診断の種類 | 実施時期 | 対象となる労働者 | 診断項目を規定する労働安全衛生規則 |
---|---|---|---|
雇入時の健康診断 | 雇入時 | 常時使用する労働者 | 第43条 |
定期健康診断 | 1年以内ごとに1回 | 常時使用する労働者 | 第44条 |
特定業務従事者の健康診断 | 右記業務への配置替え時、6ヵ月以内ごとに1回 | 労働安全衛生規則第13条第1項第2号に掲げる業務に常時従事する労働者 | 第45条 |
海外派遣労働者の健康診断 | 海外に6ヵ月以上派遣時、帰国後国内業務への就業時 | 海外に6ヵ月以上派遣する労働者 | 第45条の2 |
給食従業員の検便 | 雇入時、配置替え時 | 事業に附属する食堂又は炊事場における給食の業務に従事する労働者 | 第47条 |
3.特殊健康診断とは
特殊健康診断とは、法令で定められた有害な業務に従事する労働者に対して、業務に起因する健康障害がないか調べるために実施する健康診断です。
なお、特殊健康診断の対象者は、一般健康診断の対象にも該当する場合は、その両方の健康診断を受ける必要があります。
特殊健康診断の目的は、下記の3つがあげられます。
- 職業性疾患を早期発見して早期治療に結び付ける
- 有害要因へのばく露の程度を評価し、健康障害リスクを低減させるために作業環境や作業方法の改善に活かす
- 職業個別の労働者について、就業場所の変更、作業の転換、労働時間等の短縮を講ずる
特殊健康診断の結果によっては、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などの措置を講ずることが求められています。
特に、問診の際には、労働者の健康状態や現場での作業状況を踏まえ、作業内容やばく露状況等の聞き取りを丁寧に行うことが重要です。それらの情報を受け、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は改善などの適切な措置を講じましょう。
また、健康診断結果の記録は、5年間もしくは40年間(業務の種類により異なる)保存する必要があります。
特殊健康診断は、法令に基づくものと、行政指導によるもの、そして事業者が自主的に行うものがあります。
【特殊健康診断の概要】
特殊健康診断の種類 | 主な対象業務 | 関連法令 |
---|---|---|
じん肺健康診断 | じん肺則に定められた作業業務 | じん肺法施行規則 |
高気圧業務健康診断 | 高圧室内業務又は潜水業務 | 高圧作業安全規則 |
電離放射線健康診断 | エックス線、その他の電離放射線にさらされる業務 | 電離放射線障害防止規則 |
鉛健康診断 | 鉛等の取扱い業務 | 鉛中毒予防規則 |
四アルキル鉛健康診断 | 四アルキル鉛の製造、混入、取扱い業務 | 四アルキル鉛中毒予防規則 |
有機溶剤等健康診断 | 屋内作業場における有機溶剤業務 | 有機溶剤中毒予防規則 |
特定化学物質健康診断 | 特定化学物質を製造、又は取扱い業務(過去従事者を含む物質あり) | 特定化学物質予防規則 |
石綿健康診断 | 石綿等を取扱い、又は試験研究のため製造する業務。過去製造又は取扱い業務 | 石綿障害予防規則 |
除染等電離放射線健康診断 | 土壌等の除染等の業務、又は廃棄物収集等業務 | 除染電離則 |
歯科医師による健康診断 | 労働安全衛生法施行令第22条第3項に掲げる業務 | 労働安全衛生規則 |
行政指導によるものとしては、労働安全衛生法により定められた健康診断の他に、特定の物質を扱ったり、特定の業務に就いたりする場合に実施します。
例)腰痛健康診断、騒音健康診断、情報機器作業健康診断など
自主的に行うものとしては、リスクアセスメント健康診断があげられ、自律的な化学物質管理の一環として、 リスクアセスメントの結果などに基づき、健康障害発生リスクが高いと判断された労働者に対して、事業者の判断で実施します。
健康診断は、受診をすることがゴールではなく、それだけで健康になることはできません。その結果をもとに、必要な対応をして、はじめて効果を得ることができます。
事業者には、労働者の安全と健康の確保をする義務(安全配慮義務)がありますが、同時に、労働者側にも業務に従事できるよう健康を保つ義務(自己保健義務)があります。
双方が義務を果たし、健康診断の結果を有効に活用することで、健康管理施策の基盤を整えていきましょう。
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