記事

やりたいことが見えない時の向き合い方 ― 産業医・産業保健師のキャリア整理術 ―

30〜40代の産業医・産業保健師の中には、「やりたいことが分からない」「このままでいいのだろうか」とキャリアへの迷いを感じている人が少なくありません。専門職として一定の経験を積み、仕事にも慣れてきた頃、ふと立ち止まる瞬間があります。
「自分はこのまま続けていきたいのか?」 「他にやりたいことがあるはずなのに、それが何か分からない」
そんな漠然としたモヤモヤは、誰にでも起こりうるものです。 本記事では、やりたいことが分からないと感じる産業医・産業保健師が、最初に取り組むべきことを整理し、自分なりの「次の一歩」を見つけるためのヒントをお伝えします。


産業保健のプロになる!キャリアに差がつくセミナー多数


<目次>

1.なぜ「やりたいこと」が分からなくなるのか
2.自分の現在地を整理する3つの視点
3.小さな“探索行動”を通じて仮説を立てる
4.ワークで深める価値観とモチベーションの源
5.終わりに


1.なぜ「やりたいこと」が分からなくなるのか

30代以降のキャリアでは、「成果を出すこと」だけではなく「納得して働くこと」が重視されるようになります。とはいえ、日々の業務に追われる中で、自分の内面と向き合う時間は意識的に取らなければ確保できません。
やりたいことが分からなくなる背景には、以下のような要因が考えられます。


・業務がルーチン化して達成感が薄れている
・これまでの努力が評価されていないと感じている
・周囲のロールモデルに憧れが持てない
・自分の思いや考えを言語化する機会が少ない


特に産業保健職の中堅層は「ある程度のことはできるけれど、何かが足りない」と感じがちです。ただこの“モヤモヤ”は、キャリアを見直す貴重なサインでもあります。


2.自分の現在地を整理する3つの視点

やりたいことを探す前に、まずは“自分の現在地”を把握しましょう。以下の3つの視点で棚卸しを行うと、自分の強みや価値観が明確になっていきます。

① 得意なこと(スキル・経験)の棚卸し

これまでに身につけた知識やスキル、経験の中で、「他人からよく頼まれること」や「自分にとって無理なくできること」「時間を忘れるほど集中できること」に注目してみましょう。

このワークでは、過去の業務経験を振り返りながら、「どのような仕事が自分にとって自然にできたか」「なぜ得意と感じたのか」を棚卸ししていきます。単なる業務の羅列ではなく、そこで得た感覚や周囲からの評価、自分自身の満足感に注目して書き出すことで、自分の強みの傾向が見えてきます。

◆ワーク例:スキル棚卸しシート

ワーク例:スキル棚卸しシート

3〜5個ほど書き出してみるだけでも、自分の“核”となるスキルが浮かび上がってきます。

② 嫌だったこと・違和感があったこと

やりたいことが見つからなくても、「これは避けたい」と感じる方向性は意外と明確です。

このワークでは、「自分が苦手なこと」「ストレスを感じやすい状況」「繰り返したくない経験」をリストアップしていきます。これは「やりたいこと探し」の裏側から自分を理解する方法です。自分の中にある“違和感のセンサー”を可視化することで、より納得感のある選択がしやすくなります。

◆ワーク例:「避けたいことリスト」
・長時間の単調な作業
・正解のない話し合いばかりが続く会議
・表面的な付き合いだけの人間関係

こうしたリストは、「自分にとって心地よい働き方」を再確認する手がかりにもなります。

③ 大事にしたい価値観

「何のために働くのか」「自分が納得感を感じられるのはどんなときか」を問い直すことは重要です。

このワークでは、「心から嬉しかった仕事のエピソード」や「手応えを感じた瞬間」を書き出し、それぞれの体験にどんな意味があったのかを振り返ります。感情が動いた出来事は、あなたの価値観やモチベーションの源につながっていることが多いため、自己理解を深める手がかりになります。過去のエピソードを3つほど書き出し、「なぜ嬉しかったか」を言語化してみましょう。

◆ワーク例:充実感を得た瞬間の棚卸し
・面談後に「気持ちが軽くなりました」と言われたとき
・勉強会の講師をして、参加者から前向きな感想をもらったとき
・産業医チーム内で改善案を出し、現場に反映されたとき


3.小さな“探索行動”を通じて仮説を立てる

自己理解を深めたら、次は小さく「やってみる」段階です。大きな決断をする必要はありません。行動しながら、やりたいことを“仮説→検証”していく姿勢が大切です。

【図表】探索行動の例と得られるもの

図表:探索行動の例と得られるもの

いずれも「転職」や「副業」のような大きな一歩ではありません。まずは自分の“仮説”を検証できるような行動を、小さく積み重ねていきましょう 。


4.ワークで深める価値観とモチベーションの源

「価値観」や「モチベーションの源」を明確にすることは、キャリア選択における“判断軸”を持つことと同義です。これらが曖昧なままだと、やりたいことを選びたくても決めきれず、周囲の意見や世間の評価に振り回されてしまう恐れがあります。

本項目では、自分にとって本当に大切なものは何か、自分を前向きに動かす原動力はどこにあるのかを、ワークを通じて言語化していきます。価値観やモチベーションは「言葉で整理」しておくことで、進みたい方向の選択に役立ちます。

◆ワーク:「キャリア価値観カード」活用
以下のような言葉から、あなたが大切にしたい上位5つを選んでみましょう。

・成長 ・安定 ・創造性 ・社会貢献 ・ 自律
・仲間 ・挑戦 ・専門性 ・影響力  ・ワークライフバランス

選んだ後、それぞれに「なぜ大事に思うのか」を一文ずつ書いてみると、キャリアの方向性が具体化されます。

例:「社会貢献」…人の役に立つことにやりがいを感じるから
  「自律」…自分で時間や仕事の進め方を決めたいから

これらは、次のステップを選ぶ際の「判断軸」として使えるようになるはずです。


5.終わりに

「やりたいことがわからない」という悩みは、産業医・産業保健師として経験を積んできた人こそ感じやすいものです。キャリアの中で一度立ち止まり、自分の内面と向き合う時間を持つことは、決して後ろ向きなことではありません。
まずは、「自分の現在地」を丁寧に見つめ直し、小さな探索行動を積み重ねてみてください。やりたいことは“考えるより、やってみる”ことで見えてきます。
本記事でご紹介したワークや行動例を参考に、自分自身のモヤモヤと対話しながら、新たな道筋を見つけていってください。焦らず、一歩ずつ。
あなたのキャリアに、確かな納得感と充実感が取り戻されることを願っています。



さんぽJOB会員登録のメリット


■執筆/監修


<執筆>

キャリア×ライター山崎

動物用医薬品の営業兼エリアマネージャーとして勤務後、人材業界へ転職。キャリアアドバイザーとして医療領域専門のアドバイザーとして個人の転職支援と法人の採用支援に従事。

<監修>

さんぽLAB運営事務局(キャリアコンサルタント)

コメントする