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若年労働者への安全教育:未経験者を守るための実践例

令和5年の建設業における年齢別・経験年数別の労働災害発生状況によると、20歳代の若年労働者の発生件数は51件(全体の20.4%)となっており、51件のうち経験年数3年以内の件数が38件と約7割を占めています。このことから経験年数の浅い若年労働者の労働災害発生率は高くなっているといえます。

経験や知識が不足していると、危険への感受性が低くなります。そういった「大丈夫だろう」という意識の元、例えば「所定の道具を使わない」などのヒューマンエラーが重なると、機械による挟まれで受傷するといった事故が発生します。そのため、若年労働者への安全教育は労働災害予防において非常に重要です。


<目次>

1.若年労働者に多い災害の傾向と原因
2. 効果的な安全教育の方法
3.若手の参加意欲を高める教育ツール
4.OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の活用方法
5.成果が出た教育プログラム事例


1.若年労働者に多い災害の傾向と原因

令和5年の調査によると、若年労働者(15歳以上34歳未満)が就業している事業所の割合は73.6%となっており、若年正社員がいる事業所が62.0%、正社員以外の若年労働者がいる事業所が34.4%となっています。

若年正社員がいる事業所割合を産業別にみると、金融業、保険業が最も高く、次いで電気・ガス・熱供給・水道業となっています。一方、正社員以外の若年労働者がいる事業所の割合は宿泊業、飲食サービス業が最も高く、次いで教育、学習支援業となっています。

年齢別×業種別では、19歳以下は飲食店、20歳以上では製造業が最も高くなっています。またどの年齢層にも共通して建設業での労働災害が多くなっています。

事故の型では転倒転落、挟まれ・巻き込まれ、動作の反動・無理な動作などが多く、精神的なストレスによる労働災害にも注意が必要です。

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衛生管理者必見!労働災害予防のために実施すべき基本対策


2.効果的な安全教育の方法

若年労働者の労働災害は経験不足により起こることが多いとされています。そのため、実演やシミュレーションなど実践的な体験を重視したアプローチが効果的です。未経験者にも、実際の作業環境で起こりうるリスクを理解し適切な対処法を身に着けてもらえるようにしましょう。

①実演・デモンストレーション

具体的な作業手順を実演することで、実際の作業時にどう行動すべきかを視覚的に学ぶことができます。特に製造業や建設業など、現場での危険を伴う作業や機械の操作については、実際にお手本を見せることが効果的です。機械の使い方や安全装置の確認手順、保護具の着用など作業前に必要な準備を先輩作業者が実演指導した後、実際に若年労働者にやってもらうと良いでしょう。

②シミュレーション

危険な状況を再現するシミュレーションを行うことで、若年労働者がリスクに対してどのように対応すべきかを体験を通じて学びます。例えば火災や化学物質の漏れなど実際の災害シーンをシミュレートして対応策を学ぶ方法です。VRを活用し、現場でのリアルな体験を安全な仮想空間で再現体験するのも有効で、実際にいくつか導入事例もあり、後述で紹介します。

③ロールプレイ

危険な状況に遭遇した時にどのように対応するかを実際に演じて学ぶ方法です。例えば作業中に事故が起こった場合の対応を実践的に練習し、頭だけでなく体でも実際にどう対応すべきかを学び、身に着けることができます。グループワークで行うと自分と違う視点で対応策を学ぶことができたり、他の従業員との協力が必要になる場面もあるためチームワークも深まるため相乗的な効果も期待できます。

④ハンズオン・トレーニング

安全な環境で実際に道具や機械を使用した実技訓練を行うことです。自分で手を動かしながら学ぶことで理解が深まります。例えば重い物の持ち方や危険な作業の際に必要な動作を実際に行うことで、理論的な知識だけでなく体で覚えることができ、動作の反動・無理な動作による事故防止につなげることができます。

⑤事故事例の紹介とディスカッション

過去の事故やヒヤリハット事例を紹介しその原因や結果をディスカッションします。実際の事故を通じて具体的なリスクを理解し、同じような事故を防ぐための知識や意識を高めることができます。

⑥反復教育と定期的なフォローアップ

人間は忘れる生き物。一度だけでは効果が薄いため、定期的なフォローアップが重要です。新しい知識や注意事項も定期的に再確認することで、若年労働者の安全意識を持続的に高めましょう。定期的に安全週間を設けるなどして、労働者に安全意識を再確認してもらう仕組みづくりも必要です。

⑦メンター制度や指導員制度の導入

未経験者にとって経験豊富な先輩からのアドバイスはとても効果的です。メンターが直接的に指導することで若年労働者は疑問点や不安を解消しながら具体的な作業の中で安全な方法を学ぶことができます。


3.若手の参加意欲を高める教育ツール

学びやすく興味を引く教育ツールを活用しましょう。若年層は特に視覚的でインタラクティブな方法に反応しやすいため、以下のような教育ツールを取り入れると効果的です。

■ゲーム化

若年層の競争心や達成感を感じやすい特性を生かし、安全教育をゲーム形式にすることで楽しみながら学ぶことができます。例えば安全に関する知識をクイズ形式で学べるアプリやウェブサイトを利用したり、リーダーボードを作成して安全教育に関する課題やチェックリストをこなすごとにポイントを加算し、仲間同士の競争を促して自然と積極的に参加するように導きます。

■VRやARを活用したシミュレーション

視覚的に実際の作業環境を仮想で再現し体験することで、危険を予測して対応する力を養います。

■インタラクティブなeラーニングツール

オンライン学習プラットフォームなど自分のペースで視覚的に学べる教材を提供します。アニメやビデオを使った教育も該当します。

■ビジュアル化した安全マニュアルの作成

インフォグラフィックやピクトグラムなどを使い、安全作業の手順や作業中に注意すべき危険や安全対策を視覚的・直観的に理解できるようサポートします。

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4.OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の活用方法

先述したハンズオントレーニングと似ていますが、OJTは実際の仕事の中で行われ仕事の一部として学習するもので、指導者の下で業務をこなしながら必要な知識や習得を行います。実際の業務に必要なスキルを日常業務の中で自然に習得することを目的として実施します。

若年労働者に対する安全教育のOJTの活用方法のポイントはリスクアセスメントや安全確認を「一緒に行う」、作業中は指導者が安全を見守りながら「少しずつ作業を体験させながら覚えてもらう」、作業後に「定期的なフィードバックを行い、自身で行動を振り返らせる」、経験が積み重なってきたら「段階的に作業の難易度を上げ責任を増やす」経験豊富な同僚とペアを組ませるなどして「作業中に学び合う環境を作る」などがあります。


5.成果が出た教育プログラム事例

■A社の事例

新入社員がスムーズに会社になじめるよう、所定の研修を修了した先輩社員が配属後の新入社員を2人一組で指導する制度を導入しています。立候補制をとり、自主性があることが特徴です。

若年層でフォローし合うことで、先輩社員側には業務への理解度が深まるなどのメリットが、新入社員側には精神的にサポートを得られるメリットがあり、双方にとって労働衛生的に効果を発揮している制度です。

■B社の事例

高所からの転落を高層ビル桟橋からの墜落で再現した「墜落災害」、作業台上からの転落を再現した「転落災害」、電線管切断時の火花飛散を再現した「火傷災害」、交通事故を再現した「交通事故」をVRで疑似体験することで作業員に危険性を認識させています。またVR以外にも感電体感や三相短絡体感(電気の三相交流回路における短絡事故に関連する現象を体感)といった安全体感教育も実施されています。

■参考資料

1)建設業の労働災害発生状況|厚生労働省 群馬労働局
2)令和5年若年者雇用実態調査の概況
3)令和5年労働災害発生状況の分析等


■執筆/監修


<執筆> 衛生管理者・看護師

<監修> 難波 克行 先生(産業医、労働衛生コンサルタント)

アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
アズビル株式会社 統括産業医

メンタルヘルスおよび休復職分野で多くの著書や専門誌への執筆。YouTubeチャンネルで産業保健に関わる動画を配信。

代表書籍
『職場のメンタルヘルス入門』
『職場のメンタルヘルス不調:困難事例への対応力がぐんぐん上がるSOAP記録術』
『産業保健スタッフのための実践! 「誰でもリーダーシップ」』

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