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発達特性の理解と支援のヒント

発達特性の理解と支援のヒント
2025年10月開催のさんぽLABウェビナーでは弁護士の小島健一先生を講師にお招きし、「発達特性の理解と支援」をテーマにご講演いただきました。
パワハラや職場トラブル、業績不振やメンタル不調が生じる背景には、“発達特性から生じる感じ方や認知のズレ”が深く関わっていることがあります。本記事では、小島先生の講演内容をもとに、産業保健スタッフが現場で押さえておきたいポイントを整理しました。

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弁護士 小島健一先生

目次

  1. 「発達特性」とは ― 診断の有無にとらわれない視点
  2. 障害をどう捉えるか ― 医学モデルと社会モデル
  3. ハラスメントの根本にある人間関係の課題
  4. グレーゾーンこそ重要
  5. 発達特性の本質
  6. 苦痛や不快を感じる相手の言動も人それぞれ
  7. 発達特性への支援のヒント
  8. 会社が変われば社員も変わる
  9. 支援の行き詰まりを防ぐ“自己理解”とは?
  10. 合理的配慮


1. 「発達特性」とは ― 診断の有無にとらわれない視点


本日のテーマである「発達特性の理解と支援のヒント」について、まず前提として押さえておきたいのは、ここで扱う“発達特性”は、発達障害というカテゴリーに限定されないという点です。発達障害とされる特徴の多くは、実際には誰もが少なからず持っているものです。それが、たまたま周囲の環境やコミュニティの状況と適合しにくい場合に日常生活や業務遂行に支障が生じ、診断がつくことで支援につながることになります。
障害者雇用の現場では、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの診断を得て働く人もいますが、診断があるかどうかに関わらず、発達特性が原因となって困難を抱える状況は広く見られます。精神障害や身体障害が主たる課題であっても、コミュニケーションや仕事の進め方の面で“発達特性ゆえの苦しみや困難”が起きる例は少なくありません。本人に発達特性の自覚が乏しい場合もあります。周囲が「関わり方に悩む」「コミュニケーションが難しい」と感じるものの、本人は困っている状況を言語化できないまま職場で孤立する、といった状況もしばしば生じます。こうした背景を踏まえ、診断の有無に縛られない包括的な概念として「発達特性」という言葉を用います。


2. 障害をどう捉えるか ― 医学モデルと社会モデル


そもそも発達特性を考える際には、「障害とは何か」という視点の置き所も重要です。かつて障害は“医学モデル”で捉えられ、個人の機能障害に焦点が当てられてきました。リハビリテーションや訓練によって機能を回復・強化し、本人が変わることで困難を解消していくというアプローチです。これに対し、障害を“社会モデル”で捉える考え方が、アメリカを中心とした当事者運動から広がりました。個人ではなく社会の側が変わることで、当事者の社会参加が実現しやすくなるという視点であり、合理的配慮という概念もこの一環として生まれました。

近年は、医学モデルと社会モデルのどちらか一方に偏るのではなく、両者を関連させて捉える考え方が重視されています。個人と社会(会社、職場、同僚、上司など)の間にある関係性の中に“障害”があるのであり、関係性に働きかけて困難を解消していくことが求められます。誰かが悪いわけではなく、相互理解や信頼関係など、関係性そのものに着目してそこに働きかけることが、困難の解消につながります。この考え方は、当事者研究の第一人者である熊谷晋一郎先生に教えていただいたことです。


3. ハラスメントの根本にある人間関係の課題


発達特性の話を進める前に、まずハラスメントについて触れます。ハラスメントは突き詰めると人間関係の課題です。人間関係というと、「コミュニケーション」といった抽象的なイメージで考えがちですが、実際には非常に奥深いものです。

① 働く人の心身の健康のために何が重要か

リクルートワークス研究所が行った調査¹)によると、働く人10,000人に「心身が健康で働くために何が重要か」を尋ねたところ、最も多く選ばれた回答は「職場の人間関係が良好であること」であったという結果には、少なからず驚きました。それに対して、「医師や保健師に簡易に相談できること」を選んだ人はごくわずかであり、残念ながら、産業保健の認知が十分でないことや、中小企業には産業保健がまだ行き渡っていない状況があるのかもしれません。それでも、多くの人が直感的に、人間関係の良し悪しが健康に働けるかどうかに大きく影響すると感じていることがわかります。

② パワハラを生み出す人間関係のあつれき

職場でのハラスメント相談には、明確にパワハラとまでは言えないものも持ち込まれます。確かに、行為する側に「言い方がきつい、しつこい」「思いどおりに動かすことにこだわりすぎ」といった改善すべき課題はあるものの、被害を感じる側も「過剰に傷つきすぎ」「自分のやり方にこだわりすぎ」などと見える事案が少なくありません。つまり、パワハラが発生する周辺には、多くの「感じるパワハラ」というグレーゾーンが存在しています。さらにその基底には、日常的な対人関係ストレスというすそ野が広がっています。人間関係がうまくいかないところに、上下関係や力関係といった「権力の勾配」が加わることで「感じるパワハラ」となり、やがて、明確なパワハラへと発展していくとも言えるでしょう。


4. グレーゾーンこそ重要


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講師|小島健一先生

鳥飼総合法律事務所 パートナー弁護士 
「さんぽ会」幹事、日本産業保健法学会 理事など
人事労務を基軸に、問題社員処遇から組織・風土改革、産業保健、障害者雇用まで、紛争予防・迅速解決の助言・支援を提供
労働法務、人事労務と産業保健を架橋する諸活動に加え、働き方改革、健康経営、精神/発達障害の就労、治療と仕事の両立などの執筆・講演も多数
―― 連載「“発達する”人事―発達障害の傾向のある人の雇用にかかわる留意点と実務」(「労務事情」産労総合研究所・2020年~2021年)、講演「経営者のハラスメント防止義務を支援する」(日本労働安全衛生コンサルタント会・2021年)、論文「障害者雇用促進法が求める合理的配慮とは」(「産業保健21」労働者健康安全機構・2022年)等


1)リクルートワークス研究所 「働き方のこれからに関する1万人調査」
https://www.works-i.com/research/project/work-style/ronten/detail005.html
2) 綾屋沙月・熊谷晋一郎「発達障害当事者研究―ゆっくりていねいにつながりたい」(医学書院・2008年)
3) 熊谷高幸「自閉症と感覚過敏―特有な世界はなぜ生まれ、どう支援すべきか?」(新曜社・2017年)
4) 岩谷泰志「会社で「生きづらい」と思ったら読む本 あなたも私もみんな「発達障害」かもしれません! 」(主婦の友社・2020年)
5) 佐藤恵美「長時間労働を招く働き方に影響する発達障害特性」(「産業精神保健研究」(医療法人社団弘冨会)Vol.10. 2019年)

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