さんぽLAB

記事

適応障害を抱える社員への支援

職場のメンタルヘルス対策は、労働安全衛生上、重要な課題の1つです。今回は「適応障害」に焦点を当て、症状の特徴や必要とされる具体的な支援についてご紹介します。

  1. 適応障害とは
  2. 適応障害の症状
  3. 類似する病気
  4. 職場におけるストレスとの関係
  5. 職場復帰支援
  6. まとめ

1.適応障害とは

日常生活の中で起こった出来事や環境が、その人にとっての耐え難いストレスとなり、その結果、心身に様々な症状が現れて健康的な生活ができなくなる状態をいいます。

2.適応障害の症状

適応障害の症状は様々ですが、大きく「精神面」「身体面」「行動面」に分けられます。 
 ・精神面:気分が落ち込む、意欲の低下、感情のコントロールができなくなる
 ・身体面:不眠、倦怠感や疲労感、食欲不振、めまい、動悸
 ・行動面:考えがまとまりにくくなる、ぼーっとしてしまう、物忘れがひどくなる
こうした症状は、きっかけとなるストレスから3か月以内に見られます。また、ストレスの原因などがなくなれば、6ヶ月以内に症状がなくなるとされています。

3.類似する病気

気分が落ち込む、いわゆる「抑うつ状態」になる病気は様々あります。
適応障害の症状は「うつ病」ともよく似ていますが、適応障害の場合は、ストレスの原因から一定の距離を置くことで症状が改善されるケースが多いといわれています。抑うつ状態が見られる病気は、他にも、自律神経失調症、パニック障害、不安障害、甲状腺機能低下症、月経前気分不快症候群などがあります。 適応障害や、これらの病気と区別がつきにくく、症状が重複する場合が多いため、慎重に診断がおこなわれます。

4.職場におけるストレスとの関係

ストレスの大きさには個人差があるため、周りの人から見て「そんなにストレスでもないな」と感じるような状況でも、本人にとっては耐え難い苦悩やストレスの原因となっていることがあります。そんな時、適応障害は「本人の甘えだ」と誤解されてしまうことがあります。しかし、適応障害という病気の本質は、本人が頑張って努力しても埋められない「環境」と「本人」のギャップがあることにあります。 
適応障害の原因は、何らかの環境の変化が本人にとって大きなストレスとなることです。症状が悪化すると、業務に支障を来たし休職や退職に至ることもあります。適応障害の原因や必要なサポートについて理解を深め、起きている「不適応」に対して適切な対応をすることが重要です。

5.職場復帰支援

今回は、適応障害と診断を受けた社員への支援の中でも、職場復帰支援に注目し、そのポイントについてお伝えしていこうと思います。適応障害と診断され休職した社員が、休職中に体調が回復したことで主治医から復職許可が下りたものの、すぐに再休職になってしまうケースも少なくありません。 
不適応問題への解決策としては、2つの視点からの支援が考えられます。 
 (1) 本人が就労しやすい環境を職場が提供する 
 (2) 職場のストレスに対処できる力を本人が身につける 
職場復帰をする際は、あらためて休職理由を振り返り、再発防止策を検討することが重要です。復職を検討できる段階になり、休職者と会社や仕事について会話ができる状況になれば、会社を休むようになった理由を丁寧に確認しておくことが必要です。

■メンタルヘルス不調で休んでいた人が職場復帰する場合には、まずは元の職場(休み始めたとき  の職場)に戻すのが原則とされています。復職時に環境を変えてしまうと、新しい環境に慣れるにはあ る程度の時間と心理的な負担や疲労を招くため、病気の再燃・再発の可能性が高くなるからです。とはいえ、これはあくまでも原則です。人事労務管理上の観点から言えば、本人がパフォーマンスを発揮できるよう、職場環境や職種を臨機応変に調整することも、適正配置において重要になります。また、ハラスメント的な環境や状況が原因だった場合には、ハラスメントが再発しないよう検討が必要となります。 
主治医より「配置変換が望ましい」等、条件付きの復職許可の診断書を受領することがあります。働くことで健康を害することのないよう会社としてどこまで配慮することができるか、対応に苦慮することがあるかと思います。休職者本人と丁寧なコミュニケーションを取ることはもちろんですが、その経緯について(診療情報提供書の依頼などを通じて、主治医とコミュニケーションを取る視点が重要と考えます。本人、主治医、そして会社が「復職可能」な状態について認識を一致させることで再休職を防ぐことにも繋がります。

■会社側が、本人が適応しやすい環境を提供することも大切ですが、再発防止のためには、本人がストレス対処能力を高め、本人が環境に合わせて行動や意識を変えていくことも必要です。
外部EAP(Employee Assistance Program) の活用は、社内のスタッフに知られずに相談をしたい場合に有効です。主治医へ相談の元、カウンセリングを活用し、不適応問題の原因を一緒に整理する中で、ネガティブな考え方や受け止め方を修正していくサポートを受けることもできます。また、産業医、産業保健師など社内相談窓口をいつでも活用できるよう、体制を整えておくことが大切です。 

6.まとめ

適応障害を抱える社員への支援には『不適応状態』を早期発見し、対処することがポイントとなります。勤怠の変化、業務パフォーマンスの変化、行動面の変化など、普段とは違う社員の様子に違和感を覚えたら、まずは声をかけ、早期に対処をしていきましょう。 


一緒に見たいコンテンツ

キャプション

メンタルヘルスケアの5つのポイント【さんぽラ... | さんぽLAB (sampolab-ad.com)


参考
森本英樹・向井蘭(2020) ケースでわかる 実践型 職場のメンタルヘルス対応マニュアル. 中央経済社 
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き (2020)
https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf 閲覧 
こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト https://kokoro.mhlw.go.jp 閲覧 
アドバンテッジジャーナル(2022)適応障害による休職申請。企業担当者が行うべき手続きや対応を解説 https://www.armg.jp/journal/250-3/ 閲覧

作成:さんぽLAB 運営事務局 保健師
監修:難波 克行 産業医

コメントする
1 件の返信 (新着順)

「適応障害」診断書を会社に提出して休業に入るケースが増えています。
『会社側が、本人が適応しやすい環境を提供することも大切ですが、再発防止のためには、本人がストレス対処能力を高め、本人が環境に合わせて行動や意識を変えていくことも必要です。』と理解できますが、なかなか、ケース対応には苦慮しています。
小さな会社で部署も少ないので、一旦、休業に入ってしまうと、会社として戻る職場を考えるのが難しいことも多いです。休業者の戻る職場を作るために、会社が他の社員が異動させてる場合もあります。
会社と社員と、双方がハッピーとなる解決に向けて、保健師として対応したいです。もっと言えば、やっぱり、休業になる前に対応できることが大切だな、と感じています。

アドバンテッジさま、考える機会を与えていただき、ありがとうございます!
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。


笑顔で仕事したい!様、コメントをいただきありがとうございます。
個人と組織のバランスというところで、ご対応に苦慮されるところかと思います。
早期介入・対応の難しさもあり、連携を取りながら、「会社と社員と、双方がハッピーとなる解決」、産業保健スタッフとして追及していきたいところですね。
引き続き、産業保健の現場で役立つ情報を発信していきたいとおもいますので、
どうぞ、よろしくお願いいたします。