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産業保健担当者396名へのアンケートで見えた受診勧奨・保健指導の課題と実践のヒント

産業保健担当者396名へのアンケートで見えた受診勧奨・保健指導の課題と実践のヒント産業保健職や人事担当者から多く寄せられる「受診勧奨に応じない」「保健指導後も行動変容が続かない」「健康無関心層へ届かない」という悩み。

過去の産業保健セミナー受講者(n=396)を対象としたアンケート調査でも、「制度はあっても人が動かない」「同じ対象者が未受診のまま放置される」といった共通の課題が浮き彫りになりました。

本記事では、396名の現場の回答データをもとに、受診率向上や生活習慣改善が進まない背景を整理・解説します。

この記事のポイント:

  • 現場のリアルな課題を分析: 396名のアンケート結果から見えた職種別の傾向
  • 成果が出ない原因を解明: なぜ従来の受診勧奨や保健指導は響かないのか?
  • 活動改善のヒント:背景から読み解く次のステップ



目次

  1. 過去のセミナーアンケートから見えた参加者像
  2. 職種別データから見えた現場の具体的課題
  3. 最も多かった課題は受診につながらないこと
  4. 無関心層へのアプローチが大きな壁になっている
  5. 経験年数による悩みの傾向
  6. なぜ受診や生活改善につながらないのか
  7. 産業保健現場で取り入れたい改善のヒント
  8. まとめ

1.過去のセミナーアンケートから見えた参加者像

アンケート参加者
今回紹介する内容は、過去に開催した産業保健関連セミナーのアンケート結果をもとに整理したものです。回答者は保健師・看護師を中心に、多様な立場の専門職で構成されていました。

職種の構成

回答者の約7割を現場の実務を担う保健師・看護師が占め、次いで医師、人事労務担当者、衛生管理者、心理職など、様々な立場の専門職から意見が寄せられました。

経験年数の分布

経験年数は「1年未満」から「15年以上」まで幅広く分布しています。特に「3年以上〜7年未満」「7年以上〜15年未満」「15年以上」の中堅・ベテラン層が多数を占めており、長年産業保健に携わっている専門家であっても「人の行動変容」に苦慮している実態がうかがえます。


2.職種別データから見えた現場の具体的課題

職種によって、対象者との接点や直面するハードルは異なります。アンケートから見えてきた各職種特有の悩みを掘り下げます。

医師:継続受診の難しさやヘルスリテラシー・コスト意識

医師からは、長期的な視点や組織と従業員の意識に関する声が多く見られました。

  • 治療の自己中断: 「受診勧奨後受診が1度きりで続かず、結局次年度の健診結果はあまり変わらない。」
  • 自律的な行動の不足: 「医療側から催促しなくても自発的に動けるよう、従業員自身のヘルスリテラシーを高めたい」
  • 経営側の理解: 「保健指導や受診勧奨のコストパフォーマンスの低さが、企業側に十分理解されていない」

保健師・看護師:個別の関わりや指導技術・案内の工夫に悩む

保健師・看護師からは、具体的で多様な悩みが挙がりました。

  • メール案内の限界: 「遠隔地や拠点にメールで受診勧奨しても返信がない」「文面が事務的になってしまい響かない」
  • 指導内容のマンネリ化: 「毎年同じ対象者(リピーター)になり指導が響かない」「短時間の面談で説得のようになってしまう」
  • オンライン支援の難しさ: 「相手の温度感が伝わらず、画面越しでは実態に沿った指導ができているか分からない」

人事労務担当者・衛生管理者:参加率向上と社内稟議・情報埋没

全社的な制度運営や環境整備を担う担当者からは、社内調整に関する課題が目立ちました。

  • 情報の埋没と不参加: 「案内を出しても情報の中に埋もれる。」
  • 社内調整の難しさ: 「受診を強く促すような危機感を煽るメッセージは社内の稟議が通りにくい」
  • 組織内の立場: 「医療機関などの現場では現場職の発言権が強く、衛生管理者からの勧奨が進みにくい」

3.最も多かった課題は「受診につながらないこと」

全職種を通して最も目立ったのは、「受診勧奨をしても受診につながらない」という声でした。

  • 再検査・精密検査の受診率が上がらない

「要精密検査となっても病院に行かない」「費用助成や期間の猶予を設けても改善が見られない」といった声が多数ありました。

  • 同じ対象者を繰り返し支援している(リピーター化)

「毎年同じ顔ぶれが未受診のまま残る」「何度案内しても動かない」という声が多く、単発の案内では行動変容に至らない実態があります。

  • メール連絡の形骸化

メールでの受診勧奨について、「スルーされる」「開封されているか分からない」という限界を感じている声が多くありました。


4.無関心層へのアプローチが大きな壁になっている

多くの産業保健スタッフ・人事担当者が特に強い課題感を抱いていたのが、健康意識の低い「無関心層」へのアプローチです。従来の通知や案内だけではメッセージが届かず、以下のような特有の壁に直面している実態が浮かび上がりました。

  • 「自分ごと化」の難しさ

生活習慣病の多くは初期症状がないため、「今は困っていない」「多少数値が悪くても大丈夫」と受け止められがちです。健診結果やリスク通知を自分自身の問題として捉えてもらえず、行動変容の優先順位が上がらないという悩みが目立ちました。

  • 若年層・忙しい層の壁

「若手ほど将来のリスクに対する実感が湧きにくい」「仕事やプライベートで忙しく、健康の優先順位が上がらない」など、アプローチそのものが届かない難しさを訴える声が多く挙がっていました。


5.経験年数による悩みの傾向

経験の浅い層とベテラン層等、経験年数によって、抱える悩みの質が少しずつ異なります。

経験区分 主な悩み・傾向
経験が浅い層(〜3年未満) ・保健指導や声かけの基本的なコツが分からない
・オンラインでのコミュニケーションに不安がある
・経験不足で効果的な資料作成ができない
中間層(3年以上〜15年未満) ・対象者に応じたアプローチの引き出しを増やしたい
・受診勧奨や保健指導の成果が見えにくい
・無関心層や行動変容につながらない対象者への対応に悩む
ベテラン層(15年以上) ・長年受診しない固定化した対象者への有効な対応策がない
・指導後の一時的な改善にとどまり生活習慣が継続しない
・施策の効果測定(KPI・アウトカム)をどう示すべきか悩む

立場やキャリアが異なっても、最終的には「どう伝えれば相手の心が動き、主体的な行動(受診・生活改善)を起こしてくれるのか」という点で一致しています。

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6.なぜ受診や生活改善につながらないのか

アンケートから推察される、受診につながらない行動について、主な要因は以下の通りです。

  • 優先順位の低さ(時間的阻害):「業務が多忙で休めない」「予約を取る手間がかかる」
  • 無症状による危機感の不足(心理的阻害):「症状がないから平気」「受診して怖い診断を受けるのが嫌」
  • 組織風土・巻き込み不足(環境的阻害):「上司や管理職の理解がない」「就業時間内の受診が認められていない」「リソース不足」

    このように、受診や生活改善が進まない背景には、本人の意識の問題だけでなく「時間」「心理」「環境」という3重の阻害要因が複雑に絡み合っていることが分かります。


7.産業保健現場で取り入れたい改善のヒント

アンケート結果からは、受診や生活改善が進まない背景として、「時間的阻害」「心理的阻害」「環境的阻害」、そして産業保健側の「リソース不足」が見えてきました。これらの課題を解消するためには、原因に応じたアプローチが重要です。

  1. 対象者や行動変容ステージに応じて支援する

    同じ受診勧奨でも、相手の関心や状況によって響く内容は異なります。STP分析の考え方を参考に、「誰に(Who)、何を(What)、どのように(How)伝えるか」を整理し、対象者に合わせたメッセージを届けることが重要です。また、行動変容ステージの段階に沿った支援は、より効果的な支援につながります。

  2. 行動のハードルを下げる

    「受診してください」と伝えるだけでなく、受診先や診療科、予約方法を具体的に示し、迷わず行動できる環境を整えることが重要です。面倒さや手間といった時間的阻害を減らすことで、行動につながりやすくなります。

  3. EASTの視点で行動を後押しする

    受診勧奨の案内文やポスター等を作成する際に、Easy(簡単に)、Attractive(魅力的に)、Social(周囲の力を活用して)、Timely(適切なタイミングで)の視点を取り入れることで、自然と望ましい行動を選びやすい環境をつくることができます。

  4. 職場全体で支援し、効果を見える化する

    管理職や人事労務と連携し、受診しやすい職場環境を整備することも重要です。また、受診率だけでなく、案内メールの開封率や予約率などの中間指標を確認することで、どの段階で行動が止まっているのかを把握し、より効果的な改善につなげることができます。

  5. 限られたリソースでも継続できる仕組みをつくる

    産業保健スタッフの人員や時間が限られる中では、すべての対象者に同じ対応を行うことが難しい場合もあります。対象者のリスクに応じて優先順位をつけたり、案内文のテンプレート化や外部サービスの活用を進めたりすることで、限られたリソースでも継続的な受診勧奨や健康支援を実施しやすくなります。


    このように、受診や生活改善を促進するためには、時間的・心理的・環境的な阻害要因を減らしながら、行動を後押しする仕組みを整えていくことが重要です。


8.まとめ

アンケート結果からは、「受診勧奨が響かない」という課題が、職種や経験年数を問わず産業保健現場全体が直面している構造的な問題であることが明らかになりました。
個人への声かけの工夫に加え、人事・管理職を巻き込んだ組織的な環境整備や、ナッジ等を活用した情報発信が不可欠です。現場だけで抱え込まず、他社の事例や他職種の視点を取り入れながら、できる工夫から一歩ずつ進めていきましょう。

アドバンテッジ健康管理システム


■参考


1.標準的な健診・保健指導プログラム【令和6年度版】|厚生労働省
2.明日から使えるナッジ理論|厚生労働

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