新コンテンツ担当保健師インタビュー!これまで産業保健師として”孤軍奮闘”してきた3人が語る制作秘話
さんぽLABでは2024年1月中旬より、新コンテンツ『法令チェック』をリリースします。
『法令チェック』は産業保健師として企業で働く上で必要な法令遵守やリスクマネジメントについて理解し、実際に現場で使っていただけるようなコンテンツとなっています。産業保健に関する情報はとても多く、法律も日々改定されていくため一人で対応しようとしても、うまく進まないことも多いと思います。そんなときに関係部署と協力し、社内でスムーズに産業保健活動を推し進めていく一助になればと思っています。
今回はコンテンツ制作に携わった産業保健師3人にコンテンツ制作のきっかけや想い、どのようにコンテンツを活用してほしいかなどお聞きしました。
目次
1.担当者のプロフィール
2.新コンテンツ法令チェックとは
3.産業保健活動の難しさ、取り巻く現状や背景
4.産業保健師としての立ち位置、役割をあらためて
5.ナレッジを共有して、みんなでつくっていきたい
1 担当者のプロフィール
・豊田さん/保健師
看護師として大学病院で勤務。大手娯楽業、化粧品メーカーの健康管理室の産業保健師、立ち上げ業務を経験。出産育児を経て、社会福祉法人やIT系企業にて、初の産業保健師として立ち上げを経験。
・阿部さん/保健師
看護師として急性期領域で勤務。企業の産業保健師として経験した業界は大手企業から中小企業まで、エンターテイメント業、工場・建設業、ビルメンテナンス業と経験。
・杉村さん/保健師
看護師として病棟で勤務した後、産業保健師へ転職。食料品メーカー、電子機器メーカー、健康保険組合などを経験。
・成瀬さん/キャリアコンサルタント、事業企画推進部 課長
2022年4月にARMに入社。企画職としてさんぽLABの立ち上げから携わり、今回の新コンテンツにも企画段階から全体のディレクションを担当。
2 新コンテンツ『法令チェック』とは
ーー今回、さんぽLAB内で『法令チェック』という新コンテンツがスタートします。まずはどのような内容なのか教えてください。
成瀬:
さんぽLABでは産業保健スタッフ(産業医、保健師、看護師、衛生管理者、心理職、人事)のためのコミュニテサイトを展開し、Q&Aコーナーや法令情報、学習コンテンツを提供しています。今回、そのお役立ちツールの立ち位置として『法令チェック』という新しいコンテンツをリリースします。産業保健の基礎、土台となる法令やリスクマネジメントに関する体制構築のプロセスを可視化し、課題把握から打ち手の実行までをカテゴリごとに実施できるようにチェックリスト、解説記事、手順書という形でまとめています。
※ 経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック〜連携・協働による健康づくりのススメ(改訂・第1版)」より
阿部:
そもそも産業保健活動を実践していく上で、自分の会社にはどのような課題があるかわからないことがあります。チェックリストから課題の可視化、解説記事で関連する法令情報がわかり、手順書は最終的に関係部署と協力して円滑な産業保健活動が実施できるようなものとなっており、これらがひとつのコンテンツとしてまとまっています。今回集まった私を含めた3人は、それぞれ産業保健体制の立ち上げ、構築支援に携わった経験があり、主にさんぽLAB内のコンテンツに携わりつつ『法令チェック』にもメインで関わっているメンバーになります。
ーー『法令チェック』のコンテンツが立ち上がるきっかけにはどのようなことがあったのでしょうか。
杉村:
さんぽLABのコンテンツとしてやりたいことリストをつくっていたんです。そのときに、健康管理室の立ち上げの際にマニュアルがないから困るという流れから、健康管理室を立ち上げる際に使えるコンテンツを作ろうという話になったんです。そこから話し合いを進めるなかで、「これは立ち上げだけの問題ではない」ということになりました。まずは法令遵守できるように法令整備や仕組み化できるコンテンツを作ろうと、結果的にたどり着きました。
豊田:
企業の産業保健師はひとり職場も多く、横の繋がりもないところから立ち上げに関わることもあります。そうしたときに右も左もわからなかった、苦しかった経験は私自身もしてきました。ひとりで奮闘するのではなく、道しるべになったり、寄り添ってもらえる場所をつくることで産業保健という分野を、看護師・保健師はもちろん、関係部署や企業、すべての働く人に広めて浸透していけるようにしていきたいという想いがあり、さんぽLABを通じて、それを実現したいなと思っています。
正直なところ、私たちも『法令チェック』のコンテンツをつくりながら調べていると、知らないことがあることに気づきました。本当に産業保健の"沼"のようで、奥が深くまたそれが面白いところではあります。しかし、知らなかったことを知る機会は、現場で働いているとあまりないことが現状だと思います。立ち上げや、何か問題が起きて1から調べようとなってはじめてぶち当たる壁というか、そこではじめて気づけることも多いと思いますから。ぜひ『法令チェック』のコンテンツを知らないことを知る機会として活用していただけたらと思っています。
3 産業保健活動の難しさ、取り巻く現状や背景
ーー産業保健活動の難しさについて、産業保健師を取り巻く現状や背景にはどのようなものがあるのでしょうか。
阿部:
産業保健師として、しっかりと自信を持てるだけの教育を受けてきたかというと、なかなかそうではありません。働き出した企業で任せていただく業務にも違いがあり、ひとり職場も多く、自信を持って働いている産業保健師さんは少ないのではないかと思います。最近は一部の大学院で、産業保健について専門的な教育プログラムを受けることができる環境もありますが、現実的に働きながら通うのは難しいことも多く、基本的な知識やスキルを学ぶ場所にたどり着けないこともあります。
杉村:
本当に最初はみんな迷子だと思います。どこで情報を得ていいのか、検索して調べるけど、それが正しいのかがわからない。先輩の産業保健師や産業医がいれば聞いて相談はできますけど、そうではないところのほうが多いですから。学会も勉強するいい機会にはなりますが、全体を知って学べる場所ではないと思います。そのための産業保健師が基礎から学べる場をつくりたいというのが、さんぽLABの1つの目的でもあります。
阿部:
健康経営や産業保健活動を推進していくには、当たり前のことではありますが、体制の基盤となる法令遵守やリスクマネジメントを"ちゃんとやっていく"ことが大事です。しかし、その当たり前がなかなか難しい面もあることは産業保健の厳しい現状だと感じています。なにか有事の事態が起きて、その現状にはじめて気づくのではなく、企業にとって損失になってしまう前に、基盤となる法令、リスクマネジメントの部分をちゃんと整えることができる。その手助けとなるようなコンテンツにしていきたいと考えています。
豊田:
企業や組織を守らなければならないという視点はすごく重要ですよね。これまで病院や医療機関で働いている場合は対個人としての立場ですが、産業保健師は対個人はもちろんのこと、対組織という認識がとても重要であると思っています。
ーーコンテンツをつくるなかで3人のなかでも知らなかったこともあったとのことですが、法令遵守やリスクマネジメントに関して難しいと感じるところはどんなところですか。
豊田:
法改正がいつされたか、順序立てて一覧として載っていないなど、わかりにくいことがあるので、それを調べるのは手間がかかりますね。本当にこれは最新の法令なのか、法令で義務化されているのかなど、そもそも気づくことが難しい。そういったことが、一目でわかるようなものがあれば、現場で働く産業保健師のみなさんの手助けになれるのではと思っています。
杉村:
法律に関する情報は、さまざまな資料や書籍を見比べて情報を取ってきますが、法律は日々変わっていくので、最新の情報か分からないことも多くあります。私たちも「◯年◯月◯日にアクセスした情報です」というのは載せつつ、最新情報をキャッチアップし続けていけるようにしています。現場で働く産業保健スタッフのみなさまが、産業保健に関する情報収集で、少しでも時間短縮できればいいなと思っています。『法令チェック』は、弊社顧問の難波克行先生も入っていただいているので、こうしたバックアップによってコンテンツの質を担保しています。
4 産業保健師としての立ち位置、役割をあらためて
豊田:
産業保健活動のなかで難しいところとしては、産業保健師の立ち位置、役割だと思います。産業保健師は調整役、コーディネーターとして助言するという立ち位置なので、このコンテンツの伝え方、活用方法には注意しなければならないと思っています。事業所を守るために、産業保健師としてできること、その立ち位置が難しいと思います。事業所や関係部署が主体的に進められるように手助けできるようにという想いを持っています。目指すところは、産業保健師が事業所のなかで、事業所と一緒につくりあげていくことだと思っています。
豊田:
たとえば、『法令チェック』内のチェックリストは現状把握や可視化のため、解説記事は理解のため、手順書は事業所や関係部署と協力してやっていくためと、目的に応じて活用できるように工夫しています。最終的には保健師だけで、というものではなく、関係部署等事業所と一緒に、つくりあげていけるようにしたいと思っています。
杉村:
産業保健師は人事権や決定権を持ってはいないんですよね。この解釈が難しいところではありますが、意見することはあっても、最終的に決定するのは事業所であるということです。
豊田:
産業保健師や産業医は中立的な立場ですよね。労働者と事業所側との間に立つ。特にひとり職場ではこれを認識せずに活動すると、産業保健が成り立たなくなることがあります。だからこそ、この立ち位置や役割をわかっていないと会社や組織を守れないし、自分たちも守れないと思います。
阿部:
そうですね。責任の所在の主体になるところは別にあって、責任の所在となっている個人・組織が主体的に、積極的に問題解決できるようにサポートする役割であると思っています。どうしても医療職、専門職だと医学的なところで意見を求められて直接判断してほしい、また保健師側も使命感を持ってやってしまうことがあり、役割がねじれてしまっているのだと思います。本来はどちらの立場も考慮して、支援するための答えを出す必要がある、その方が属している組織とのバランスを考えて、個人・組織のどちらの想いも加味して中立的な立場として関わっていく職種が産業保健師ですね。
成瀬:
私は専門職と企業の人事部門や管理職の方、両方の立場の方と話をする機会があるのですが、情報の非対称性というか、産業保健に対しての考え方の違いが大きいなと感じることがありますね。そういったなかでは専門職の方は医療職としての正論を振りかざすのではなく、企業の視点にも立ち、専門職としての知見を適切に伝えながら産業保健活動を遂行していくことも大切なのだろうなと感じています。
阿部:
企業という現場では、臨床現場で求められる役割とは違った視点が必要とされています。医療の正しさ、のようなものを振りかざすのではなく、企業側の視点を養い、中立的な立場で、個人・組織にとって、より良い解決策を見出すために、医学的な知識や経験を丁寧にお伝えしていきたいですね。
5 ナレッジを共有して、みんなでつくっていきたい
ーー現在、コンテンツをオープンしたばかりではありますが、今後どのようにコンテンツの発展を考えていますか。
杉村:
さんぽLABは会員さまとつくっていきたいコミュニティなので、法改定があったときに現場ならではの話が出しあえるようなコンテンツに今後なってほしいなと思います。具体的には、会員さま同士で情報やナレッジ共有できるようにコンテンツもどんどん充実させていきたいと思っていますので、ブラッシュアップできるように整えていきたいですね。みんなで悩みながらもみんなで働きやすい、いい環境をつくっていきたいです。
豊田:
「この法律はこっちの情報もわかりやすいよ」「こういう使い方していますよ」「こういうのつくってほしいです」などと教えてもらえたら嬉しいですよね。いただいたコメントや質問などは、とても参考になります。
阿部:
私自身も産業保健活動でもがき苦しんできた経験がありますが、本来もがき苦しむ必要はないと思います。産業保健師のおかれる教育や職場環境の特性上、そういう環境で悩みながら仕事している人が多いとは思うのですが…。ひとりではなくて、さんぽLABのコンテンツや『法令チェック』を活用することで少しでも前向きに、やりがいをもって、進んでいただけたらいいなと思います。産業保健師がいきいき働いていただく、そうした場面でお役に立てればと思います。
新コンテンツ「法令チェック」第1弾の「安全衛生管理体制」の記事はこちらから👇
産業保健を記事と動画でまるっと学べる「さんぽラーニング」も是非、ご活用ください。
監修医師のご紹介
産業医 難波 克行 先生
アドバンテッジリスクマネジメント 健康経営事業本部顧問
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投稿を表示企業の保健師です。
壮大な企画ですね。大変そうで、しかし、楽しそうです。
「本来もがき苦しむ必要はないと思います。」のコメントが心に響きました。
私は採用後、「社員に保健師の存在を、何をしてるかを、知ってもらおう!」との思いがありましたが、私を採用した人事部長からは「誰も、産業医や保健師が何をしてるかなんて、知りたくない。」と言われ、もがきまくりながら、気づけば10年以上が過ぎた感じです。最初の私は、張り切り過ぎだったのでしょうかねー。今は少しは保健師が社員から認められた存在となっていると感じているし、そう信じたいです。
『法令チェック』で、いきいき働けるようになりそうです。
アドバンテッジさま、ありがとうございます!!
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