胃がんリスクを減らすために知っておくべき!ピロリ菌検査の重要性とは
胃がんという言葉を聞くと、中高年以上がなりやすいのでしょう?と捉えている方も多いと感じます。若年層からしてみれば、胃がんという病気は遠いものと考え、「すぐに検査をしよう」「すぐに健康的な生活へ変えよう」と行動に移す人は多くないと言えます。しかし、胃がんというのは若いうちに検査・対策をすることが重要だと知っている人は少ないのではないでしょうか。
本記事では、あらためて胃がんの基本からピロリ菌検査の重要性についてポイントを抑えました。胃がんについて考えるきっかけや社内への情報提供としてご活用いただけますと幸いです。
目次
1.あらためて胃がんを知る
胃がんは日本人の罹患率、死亡率がともに上位の病であり、かつては国民病とまで言われていました。生活環境や習慣の変化に伴い、徐々に減少しているものの国立がん研究センターが公開している最新のがん統計情報によると、罹患率、死亡率ともに3位とまだまだ高いままであることが分かります。
胃がんは高い罹患率を示しますが、早期(ステージI期)に発見できた場合の5年生存率は90%以上と極めて高いです。そしてステージがII、IIIと進むにつれて、5年生存率は60%、40%と下がり、IV期では10%以下まで低下します。
胃がんは、治療後5年以上経過した後に再発する可能性は少ないため、前述の数字はいかに早期発見、早期治療が重要であるかを示しています。また、治療法に目を向けると、早期の胃がんであれば内視鏡を用いた治療で対応できる可能性があります。内視鏡治療は開腹手術に比べて経済的にも身体的にも負担が小さく、さらに胃も温存されるために手術後の食生活への影響も含めてメリットが大きいと考えられています。
この様に胃がんは、発症したとしても早期に発見できることが重要であることがわかっており、国も検診よる早期発見の意義を認め「5つのがん検診」として推奨し、対象者の5年以内の検診受診率を60%にする目標を掲げています。検診方法としては、胃部X線や内視鏡検査があります。このような検診による死亡リスクを低く抑える対策は、「二次予防」に分類されています。
検診率を上げることは、胃がんによる死亡率の低下につながる一方で、がんの見落としも発生します。そのため定期的に検診を受けることが求められます。また、胃がん検診では胃壁の内部で発生・増殖する一般的に「スキルス胃がん」と呼ばれるタイプの胃がんは早期発見が難しいことが知られています。また、検診率が上がることで偽陽性判定を受ける人の数も増加することによる精神的な不安や精密検査を受診することによる経済的な負担が生じると懸念する声も存在します。
胃がんに限らず、検診の受診率を上げることとあわせて、がんにかかることを防ぐ「一次予防」を推奨することが世界的な共通認識となっています。
2.胃がんの一次予防について
胃がんにおける「一次予防」の対象として代表的なものにタバコ、塩分過多、Helicobacter pylori(ピロリ菌)感染などがあげられます。タバコは肺がんをはじめ15種類のがんのリスクを上げることが報告されています。塩分摂取量においても胃がんの間には高い相関がみられ、タバコと合わせて生活習慣の改善が胃がんの予防には重要です。その中でも胃がんの重要なリスク要因と考えられているものがピロリ菌の感染の有無です。日本人の胃がんを発症した人を対象にピロリ菌の感染を調査したところ、そのほとんどがピロリ菌陽性者と過去にピロリ菌に感染していたかのどちらかで、ピロリ菌未感染で胃がんを発症するケースは2%に満たなかったのです1,2)。
ピロリ菌は、胃の粘膜上皮細胞および粘液層に生息しています。ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を発現し、自身の周囲の酸性を中和することで、胃粘液中での生活を可能にしています。国内におけるピロリ菌の感染の多くは5歳までの幼少期に起こり、その感染経路は大部分が家族内感染だと考えられます。幼少期にピロリ菌に感染すると、慢性胃炎を発症し、時間経過とともに様々な病気へと発展します。胃炎が進行し萎縮性胃炎や腸上皮化生になるとがんの発生母地となるのです。
ピロリ菌と胃がんの関連性は、様々な研究で検討されています。胃腸に何らかの症状を発症している人をピロリ菌の感染の有無で振り分けてその後の平均7.8年を追跡した国内の追跡調査がありました3)。結果は、ピロリ菌感染者群は約3%に胃がんの発生が見られたが、未感染群からは発生することはなかったのです。また、スナネズミを用いた実験においてはピロリ菌の長期感染によって胃がんの発症が確認されました4)。このような結果から、ピロリ菌が胃がんに対して強いリスク要因であることが明らかにされたのです。さらにピロリ菌が感染していたとしても除菌を行うことで胃がんのリスクを抑えられることがスナネズミを用いた動物実験5)が報告され、その結果を支持するヒトを対象とした調査研究が報告されています。
中国で行われたピロリ菌除菌の追跡調査において、早期感染時の除菌群はその後の7.5年間で胃がんを発症することが無く、非除菌群との比較からピロリ菌除菌の有用性を示唆しました6)。一方で、同じ調査において除菌前に腸上皮化生等の前がん性病変まで進行していた場合は、除菌後の胃がん発生率に有意差が見られなかったことから前がん病変に至る前に除菌を行うことの重要性も示唆されました。
また、Lancetに報告された研究において、国内の早期胃がん治療後の萎縮性胃炎が見られた人であってもピロリ菌を除菌することで、その後の3年間の追跡調査で胃がんの発生率が1/3に抑えられたことが示され、あらためてピロリ菌除菌の重要性が判明しました7)。
さらにがん検診での発見が難しい「スキルス胃がん」においてもピロリ菌の感染が関わっていることが報告されています8)
以上のような報告から、ピロリ菌の感染は胃がんのリスク要因であり、感染している場合は早期に除菌を行うことで高い効果が得られるということが明らかになり、2013年に日本において胃がん予防のために内視鏡検査で炎症が確認された場合、ピロリ菌の検査及び除菌治療に対して保険適用となりました。
3.若いうちのピロリ菌検査の重要性
しかしながら、前述の研究でも報告されているように症状の進行にともなって、除菌の効果が低下してしまうこと、がんは発生してから検診で見つけられる程度に成長するまでに10年ほどかかることから、がん検診が始まる40-50歳よりも早い段階でピロリ菌の検査および除菌を行うことが効果的と考えられます。また、現代の国内での感染経路は家族内感染が中心であることも合わせて考えると、子供への新規感染を予防するためにも若年層の検査および除菌を勧めることが、効果的な胃がんの予防戦略となりうるのです。ピロリ菌は、幼少期を超えると感染することは非常にまれであるため、一度、除菌を行えば定期的に検査や除菌を行う必要は無いため、とても効果の高い予防策となります。
自治体において、中高生を中心に検査および除菌を推進している地域もありますが、対象となっていない地域もまだ多く、期間が限られているとチャンスを逃す人もいるのが現状です。そういった人たちに対して、会社等の所属するコミュニティーで検査および除菌を推進していくことが出来れば、将来、胃がんで苦しむ人を大きく減らすことにつながるのです。
現在、ピロリ菌の検査方法は複数あり、内視鏡を使用する検査とそれ以外に大別できます。グループでの1次スクリーニングの場合、コスト、簡便性、非侵襲性、対象人数等を考慮すると、内視鏡を用いない検査が好ましく、自治体での検査も1次スクリーニングには尿中抗体検査が採用されていることが多いです。1次スクリーニングで陽性となった人を対象により精度の高い2次スクリーニングや胃の状態を確認する内視鏡検査に進むことが望ましいです。
ピロリ菌検査および除菌による胃がん対策は、健康面だけでなく経済的な恩恵があることがシミュレーション結果として報告されています。この結果は、検査および除菌を行うことが本人だけでなく周囲で支える家族、所属するグループにおいても有益であることが推測できます。つまりピロリ菌検査および除菌を広く推進することは、将来における胃がんの罹患数や死亡数を減らすだけでなく、胃がんの発生数が多い日本において経済的な負担の軽減や有能な人材の損失を免れることにつながります。これを機に各々が所属するグループのピロリ菌検査および除菌の重要性を話し合っていただければ幸いです。
参考文献1) Matsuo T, Ito M, Takata S, et al. Helicobacter (2011) 16 (6), 415-9.
2) Ono S, Kato M, Suzuki M, et al. Digestion (2012) 86 (1), 59-65.
3) Uemura N, Okamoto S, Yamamoto S, et al. N Engl J Med (2001) 345 (11), 784-9.
4) Watanabe T, Tada M, Nagai H, et al. Gastroenterology (1998) 115 (3), 642-8.
5) Shimizu N, Ikehara Y, Inada K, et al. Cancer Res (2000) 60 (6), 1512-4.
6) Wong BC, Lam SK, Wong WM, et al. JAMA (2004) 291 (2), 187-94.
7) Fukase K, Kato M, Kikuchi S, et al. Lancet (2008) 372 (9636), 392-7.
8) 入口陽介, 小田丈二, 冨野泰弘, 他. 胃と腸 (2020) 55 (6), 779-93.
執筆者
株式会社プリベントメディカル 塚本精一
2015年に創業し、がんの早期発見・早期治療をコンセプトとした「がん予防メディカルクラブまも~る」を運営。全身のがんリスクを調べるNoah検査をはじめ、ピロリ菌の有無をチェックし、陽性者には胃カメラを無償提供する尿中抗体検査+胃内視鏡サポートを取り扱う。