「過重労働対策」チェックリスト/解説記事/手順書
長期間にわたる過重労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられ、さらには、脳・心臓疾患、精神疾患の発症との関連性が強いという医学的知見が得られています。働くことにより労働者が健康を損なうようなことはあってはならないといえます。
過重労働とは、法令などで明確に定義されている言葉ではありませんが、「長時間にわたる労働」や「身体的・精神的に負担の大きい労働」を指します。今回は、「過重労働対策」について詳しく説明していきます。
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■過重労働対策の目的
■過重労働による健康障害を防止するために事業者が講ずべき措置
■長時間労働者に対する面接指導
■まとめ
■過重労働対策の目的
労働者が疲労を回復することができないような長時間にわたる過重労働を排除していくとともに、労働者に疲労の蓄積を生じさせないようにするため、労働者の健康管理に係る措置を適切に実施することを目的としています。
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■過重労働による健康障害を防止するために事業者が講ずべき措置
過重労働による労働者の健康障害を防止することを目的として、以下①~④の項目について、事業者が講ずべき措置が定められています。
労働時間の種類や定義については、労働基準法(;労基法)にさまざまに定められています。人事部の担当者と話をするときや、社内規則などでは、厳密な用語の使い方が求められることがありますので、産業保健専門職も、それぞれの用語について理解しておくと良いでしょう。ただし、産業保健専門職としては、法制度を細かい部分まで全て理解する必要はありません。事業所内の労働者に対して、どのような労働時間の管理が行われているかを把握しておけば十分です。
▶時間外労働と休日労働の定義
労働基準法では、労働時間は原則1日8時間、1周40時間までと定められています。これを法定労働時間と言います(ただし、一部、例外が設けられている場合もあります)。この法定労働時間を超えて労働をさせた場合が、労働基準法の時間外労働です。また、労働基準法では、1週間に1回あるいは4週間を通じて4日以上の休日を付与することが定められています(法定休日)。この法定休日に労働をさせた場合を、休日労働と呼びます。
時間外・休日労働は、本来臨時的な場合に行うものであり、労働者の健康を確保するためには、事業者は時間外・休日労働をできるだけ削減することが重要です。
▶36協定とは
36協定とは、時間外・休日労働について、労使間(労働者と使用者)で結ぶ協定のことをいいます。
労基法36条に基づくことから一般的に36(サブロク)協定と呼ばれていますが、正式名称は「時間外・休日労働に関する協定届」です。労働基準法では、労働時間は原則として「1日8時間、1週40時間以内」と定められています。また、休日も「毎週少なくとも1回」と決まっています。
この法定労働時間を超えて働く場合、「1日」「1カ月」「1年」それぞれの期間に対する時間外労働の上限について、労働者と使用者との間で協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。36協定を締結しないまま残業や休日出勤をさせれば法律違反となり、企業は労働者がたとえ1人でも届け出なければ、法定労働時間外に働かせることはできません。36(サブロク)協定を締結し、労働基準監督署長に届け出た場合は、時間外・休日労働をさせることができます。
▶①時間外・休日労働時間等の削減
(1)時間外労働の上限規制
36(サブロク)協定を締結し、労働基準監督署長に届け出た場合に限り、労働者に時間外・休日労働をさせることができます。ただし、その場合も残業時間には上限が設けられています。原則として、時間外労働の上限は、月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできません(休日労働は含まず)。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、2~6ヶ月の平均で80時間以内とする必要があります。原則である月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月までです。
時間外労働の上限規制の例外
一部の事業・業務に従事する労働者については、時間外労働の上限規制が猶予または適応除外となります。
(2)時間外・休日労働削減の取り組み
時間外・休日労働削減の取り組みは、下記2つ視点から進めることが重要です。
・労働時間に関する制度の整備(例:ノー残業デイ、ノー残業ウィーク設置、代休の付与等)
・業務内容・量の改善(例:部署内での人員配置の調整、ソフトウェア導入などによる業務効率化等)
※高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度とは、一定の要件を満たす場合、労基法に定められた労働時間・休憩・休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。ただし、健康管理の対策については実施が必要です。
▶②年次有給休暇の取得
有給休暇とは、労基法39条に基づき、労働者に付与される、取得しても賃金が減額されない休暇のことです。有給休暇は心身の疲労を回復、労働者の生産性向上に有効です。
そのため、過重労働による健康障害を防ぐためにも、取得促進を行うことが重要です。
2019年4月から、10日以上の年次有給休暇を取得した労働者を対象に、年5日以上の年次有給休暇取得させることを事業者に、義務付けました。
▶③労働時間等の設定の改善
労働時間等の設定の改善とは、「労働時間、休日数、年次有給休暇を与える時季その他の労働時間等に関する事項」について、「労働者の健康と生活に配慮する」とともに、「多様な働き方に対応したものへと改善する」ことをいいます。労働時間を短縮するというだけでなく、労働者の健康と生活に係る様々な事情をふまえつつ、下記のような取り組みを行うことが大切です。
具体例
・実勢体制の整備
・労働者の抱える多様な事情及び業務の形態に対応した労働時間等の設定
・年次有給休暇を取得しやすい環境整備
・時間外・休日時間の削減
・労働時間管理の適正化
・多様な正社員、ワークシェアリング、在宅勤務、テレワーク等の活用
・終業及び始業の時刻に関する措置
・国の支援の活用
・特に配慮を必要とする労働者について事業者が講ずべき措置(健康の保持に努める必要があると認められる労働者、子の養育又は家族の介護を行う労働者、妊娠中及び出産後の女性労働者、公民権の行使又は公の職務の執行をする労働者、単身赴任者等)
※勤務時間インターバル制度とは
勤務時間インターバル制度とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、労働者の生活時間や睡眠時間を確保するものです。
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(2018年7月公布)によって、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(労働時間等設定改善法)が改正されたことにより、「勤務間インターバル」制度導入が事業主の努力義務となりました。
日本国内ではインターバル時間の長さに関する具体的な規定はありませんが、EUでは、EU加盟国のすべての労働者に24時間毎に最低でも連続で11時間のインターバル時間を設けることが義務付けられています。
▶④労働者の健康管理に係る措置の徹底
過重労働による健康障害を防止するためには、時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進といった労務管理だけでなく、健康障害の早期発見や再発防止といった健康管理も重要です。
過重労働に関する措置の具体例
・健康管理体制の整備、健康診断の実施等(安全衛生管理体制の構築、健康診断の実施、健康教育等)
・長時間労働者に対する面接指導等 (労働時間の把握、産業医及び労働者への労働時間に関する情報の通知、面接指導の実施等)
・メンタルへするケアの実施(ストレスチェックの実施)
・過重労働による業務上の疾病を発生させた場合の措置(原因の究明、再発防止)
・労働者の心身の状態に関する情報の取扱い(健康情報の適正な管理)
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■長時間労働者に対する面接指導
事業者は、労働安全衛生法(;安衛法)に基づき、長時間時間外・休日労働を行った労働者に対して医師による面接指導を行うことが義務付けられています。(安衛法66条の8項)
医師により、労働者の勤務の状況や疲労の蓄積状況、心身の状況を確認し、労働者の疾病リスク減少させることを目的としています。
▶対象者の選定
事業者は、安衛法に基づき、長時間時間外・休日労働を行った労働者に対して医師による面接指導を行うことが義務付けられています。(安衛法66条の8項)。 上記に該当しない労働者であっても、健康への配慮が必要な労働者に対しては、医師による面接指導またはそれに準ずる措置を行うよう努めることが求められています。(努力義務)
面接の対象者
※「高度プロフェッショナル制度適用者」、「新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務に従事する労働者」については上記とは異なる規程がある。
以降、①の場合に行う医師による面接指導について説明していきます。
▶面接指導の実施
(1) 面接指導の実施前の準備
①労働時間の算定・把握
事業者は、長時間労働者に対し、面接指導を実施するため、客観的な方法で労働時間の状況を把握し、3年間保存することが義務付けられています(安衛法66条の8項、労働安全衛生規則;安衛則52条の7項)。労働時間の算定は、毎月1回以上、一定の期日を定めて行うことが義務付けられています。(安衛則52条の2項) 労働時間把握の客観的な例としては、タイムカード、ICカードによる確認、パソコンの使用時間による確認等があげられます。
②労働者本人への通知
事業者は、時間外・休日労働時間が80時間超の労働者に対し労働時間の状況に関する情報を通知しなければならない(安衛則52条の2項)
③産業医への情報提供
事業者は、産業医に対し時間外・休日労働が月80時間超の労働者の氏名や労働時間に関する情報、労働者の健康状態等を適切に行うために必要な情報を提供しなければならない。(安衛法13条の4項、安衛則14条の2項)
④面接指導の勧奨
産業医は労働者に対し、面接指導を受けることを申し出るよう勧奨できる。また、事業者は労働者が面接指導の申出をしやすい環境づくりを行うために、申出様式の作成や窓口の設定などとその周知を事前に行っておくことが重要です。
(2)面接指導の実施
面接指導は医師が行う(安衛法66条の8項)。法令上は医師であれば問題はないが、産業医など、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師が面接指導を行うことが望ましい。
面接指導では、①勤務の状態、②疲労蓄積の状況、③その他心身の状況を確認する。
また、派遣社員の面接指導は、派遣元事業者で実施する。産業医のいない小規模事業場などでは、地域窓口(地域産業保健センター)の活用を図るとよい。
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▶意見聴取
事業者は面接指導を実施した医師に対して意見聴取を行う(安衛法66条の8項)。この意見を勘案し、必要に応じて、適切な措置を講じる必要がある。
▶事後措置
事業者は、面接指導の実施後に、必要と認められるときは、労働者に対し事後措置をおこなわなければならない。(安衛法66条の8項)
意見聴取後の事後措置は、下記のようなことを行う。
事後措置の具体例
就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数減少、委員会等への報告
▶結果の保存
事業者は、面接指導の実施日、労働者の疲労の蓄積の状況等や、医師の意見を記録し、下記の内容を記載し、5年間保存しなければならない。(安衛法66条の8項、安衛則52条)
1.実施年月日
2.面接指導を行った医師の氏名
3.労働者の氏名
4.疲労蓄積の状況
5.心身の状況
6.医師の意見
労働者が、事業者の保存している面接指導の結果の開示を希望した場合は、遅滞なく該当データを開示しなければならない(個人情報の保護に関する法律22条)。なお、プライバシーに十分配慮して保管する必要がある。
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■まとめ
長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積により、脳血管疾患、虚血性心疾患、メンタルヘルス不調などの原因となり、働き方の多様化が進む中でも、変わらず大きな課題となっています。過重労働対策は、法的背景を理解し、事業場や産業医の役割を踏まえて、関係職種が連携し、支援を行うことが重要です。
STEP 3 手順書をダウンロードして体制づくり
手順書には、体制づくりの進め方が記載されています。実際に体制整備を実施する際に、関連部署に提供し、一緒に体制づくりを進めるためにご活用ください。