さんぽLAB会員様へインタビュー!産業医としてのキャリアと事務所設立への道のり
さんぽLABの会員様へインタビュー!
さんぽLABに参加頂いている会員様へ「産業医のキャリア」に関するインタビューをさせていただきました。今回は、臨床医と産業医としてキャリアを積まれているT先生へ、産業医としてのキャリアや、産業医事務所の立ち上げに至る経緯をお伺いします。
目次
1.産業医としてのキャリア
■現在のキャリア
■就労について
■自己研鑽の方法
■今後のキャリア
2.産業医事務所立ち上げの経緯
■立ち上げのきっかけ
■立ち上げ後の変化
■これから
1 産業医としてのキャリア
■現在のキャリア
産業医のTと申します。大学を卒業後、約10年間臨床医としての経験を積んできました。泌尿器科の専門医資格も取得しており、臨床の現場で多くの患者さんと接してきました。2023年11月に産業医の資格を取得し、現在は嘱託産業医として活動しています。
また、男性のメンタルヘルス不調の大きな原因のひとつである男性更年期障害に対応するため、テストステロン治療認定医の資格も保有しています。現在は臨床医としての業務と産業医としての業務を兼務しております。
どちらの仕事も楽しく、充実感を持って取り組むことができています。産業医活動では、一社一社を丁寧にサポートできているという実感があります。臨床と産業医の比重はほぼ半々ですが、今はとてもバランスが良いと感じています。
産業医に興味を持ったきっかけは、治療医として男性更年期や尿路結石症など、生活習慣病に関わる患者さんを多く診てきた経験が大きいと思います。私は尿路結石症の専門病院で約4年間働き、全国から難治症例の手術を行う日々を過ごしていました。手術自体には大きなやりがいを感じていましたが、再発する患者さんが多く、生活習慣に根ざした予防がなされていない現実を目の当たりにしました。特に尿路結石症は働き盛りの世代に多く、生活習慣やストレスが原因となることが多いです。外来でフォローを続ける中で、患者さんの生活習慣や働き方に起因するケースが増えていると感じ、病気そのものを予防することの重要性を強く意識するようになりました。
また、企業の健康診断やフォローがあれば、この病気を未然に防げたかもしれないと思うケースも多くありました。こうした経験を通じて、病気の発症を防ぐための生活指導や予防医療に関心を持つようになり、産業医を志望しました。
痛みは大きな問題ですが、腎臓に石ができることで腎機能が低下し、慢性腎臓病と進行するリスクもあります。特に、両方の腎臓の機能が低下した場合には、透析が必要になることもあります。働き盛りの世代にとっては、仕事と治療の両立が難しく、大きなストレスを抱える要因にもなりかねません。このような状況を防ぐためにも、積極的に予防医療に取り組むことが重要だと考えています。
■就労について
今年から本格的に産業医として活動を開始し、現在は10社ほどの企業様を担当しています。担当する企業の業種はIT企業、人材派遣業、ゲーム開発会社、製造業、小売業、卸売業など多岐にわたり、特に製造業の一部では有機溶剤を取り扱うため、特殊健康診断が必要となるケースもあります。
従業員数は50名から200名まで様々で、企業によっては新しく衛生委員会を立ち上げるお手伝いをしています。IT業界のように肉体労働が少ない職場もあれば、製造業など、労災につながる可能性の高い過酷な作業環境で働かれている方々もいらっしゃいます。そのため、産業医として職場巡視を通じて、職場の安全や労災防止の観点からも支援を行っています。
幅広い業種で様々な職場環境に対応することで、自分自身も産業保健について幅広く学ばせていただいており、引き続き産業医として企業様に貢献できるよう活動を続けています。
産業医のお仕事は、主にエージェント経由で見つけています。現在、4社のエージェントにお世話になっており、最初の企業の採用につながった後に、他のエージェントにも相談して徐々に担当企業を増やし、現在は合計10社を担当しています。先輩や知人からの紹介は、今のところ特にありません。先輩の産業医の先生からは、「専属案件を探すなら、さんぽLABさんのサイトがすごくいいよ」と教えていただいたこともあります。
※さんぽLABの求人情報は、2024年9月よりさんぽJOBへ移行しました。
エージェント経由での仕事探しの良い点は、通常の直接雇用では手が届きにくい情報やサポートを得られるところです。たとえば、健康管理クラウドやストレスチェック外注業者の紹介などもしていただけるので、必要なサービスについて新たな視点を得られます。また、業界全体のツールやサービスを網羅的に知るのは難しいため、エージェントを通して情報やサービスにアクセスしやすくなる点も助かっています。
できるだけ多くの経験を積みたいという意向がありますが、移動時間などの制約も考慮しています。そのため、エージェントには自宅からの距離やアクセスのしやすさを予め伝えています。
さらに、業種に特にこだわりはないものの、産業医としての役割が限られている企業様よりは、産業保健に理解があり、協力的な企業様を紹介してもらいたいとエージェントにお願いしています。
■自己研鑽の方法
私は産業保健関連や産業医の分野の書籍を繰り返し読み、知識を深めています。特に、実務の中で企業様からいただく質問に丁寧にお答えするため、自身も知識をしっかりと持っておくことが重要だと感じています。そのため、質問を受けた際にすぐに答えられない場合は、一度調べてから再度ご連絡するなどの対応も心がけています。
また、さんぽLABさんが提供する”お困りごとQ&A”のトラブルシューティングのような情報も過去の投稿を参考にしながら学んでいます。さらに、産業医アドバンスト研修会にも有料会員として参加し、経験豊富な先生方から実務に直結した知識や、最新の労働衛生状況に関する情報を学んでいます。このように、日々、実務で役立つ知識を積み重ねています。
いくつかの参考書がありますが、『嘱託産業医スタートアップマニュアル【ゼロから始める産業医】(日本医事新報社/勝木 美佐子・奥田 弘美著)』を繰り返し読んでいます。この書籍は5~6回読み返しており、困っている部分をピンポイントで補填できるため、非常に役立っています。何度も見返して勉強している一冊です。
■今後のキャリア
そうですね、まず産業医としては、来年、労働衛生コンサルタントの試験を受けたいと考えています。特に製造業での業務管理の観点から、有機溶剤や作業管理、作業環境管理などについての詳細な知識が求められる場面も多く、これまでの産業医としての実務経験と知識を体系的に深めたいという思いがあります。産業医として企業様に対してより価値のあるサポートを提供できるように、この試験に向けての学習を始めたいと思っています。
また、医師としての臨床経験を大切にしながら、臨床医としてのスキルも引き続き維持したいと考えています。産業医の業務においても臨床経験が非常に役立つと感じているため、臨床と産業医の両方の立場から総合的な支援を提供できる医師を目指しています。
個人的にはメンタルヘルスにも関心を持っており、男性更年期障害とメンタルヘルスの関連に注目しています。この分野での臨床医としての専門性を活かしつつ、産業医としても役割を果たすことで、相乗効果が期待できると考えています。”臨床医+産業医”として、男性更年期障害によるメンタル不調に専門的にアドバイスできる医師を目指していきたいと思います。
嘱託産業医と専属産業医のどちらを目指すかによって、それぞれ働き方や求められる業務が異なります。初期研修を終えてすぐに産業医として働く医師は少なく、一般的には臨床医としての経験を積んだ後に産業医を志すケースが多いと思います。
2024年4月より医師の働き方改革も進行していますが、病院の医師の労働環境の改善にはまだ時間がかかると思います。このような状況の中で悩んでいる方にとって、産業医は働き方の選択肢の一つになるのではないかと思います。ただし、産業医の業務内容は臨床医とは異なるため、自分に向いているかどうかは経験してみないと分からないこともあります。
産業医としてのキャリアに興味がある方は、一度、産業医としての仕事を受けて、チャレンジしてみるのも良いかもしれません。
産業医の魅力の一つは、予防医療に関われる点です。病院やクリニックでは直接的な予防医療に関与しづらいですが、産業医はこの領域での活動が可能です。予防医療に興味がある医師にとっては、非常にやりがいのある仕事だと思います。
2 産業医事務所立ち上げの経緯
■立ち上げのきっかけ
産業医という仕事に興味を持ったことが大きなきっかけですが、プライベートでも影響がありました。実は、私の妻も医師で、夫婦で共同して取り組める事業にチャレンジしたいと考えていたのです。そこで、産業医事務所を設立することにしました。
妻も産業医の資格を取得しており、現在は嘱託産業医として活動しているため、自然な流れで一緒に運営することになりました。知識や事例を共有できる点は、夫婦で産業医として働く大きな利点だと感じています。
■立ち上げ後の変化
立ち上げてみると、事務所運営に関する業務がさまざま増えました。エージェントを通じて仕事をいただいているため、サポートを受けている部分も多いのですが、業務委託契約の締結や毎月の請求処理といった作業が新たに加わり、これまでとは異なる業務内容になりました。
さらに、経理関係の業務もあります。法人の経理は自前で行っていますが、実は私は簿記の資格を持っているため、顧問税理士にサポートしてもらいながら、日々の経理業務や給与関連の処理も自分たちで行っています。こうした点では、経理や総務に関する知識が必要であり、以前の業務とは大きく異なる部分だと感じています。
世の中には合同会社や株式会社など、さまざまなビジネス形態があります。その中で、個人ではなく法人を構える目的が明確でないと、将来的に頓挫する可能性もあると思います。産業医としての活動に軸を据えていることが大前提ですが、その気持ちがしっかりしていれば、事務手続きは煩雑ではあっても特に問題なく進められると感じています。
私自身は最初から法人としてスタートしましたが、まずは個人事業主として経験を積み、徐々に法人化を目指す方もいらっしゃいます。個人契約から法人契約に切り替える際にエージェントに負担がかかることを気にされる方もいるかと思いますので、そうした場合には、私のように最初から事務所を構えて活動するのもひとつの方法かもしれません。
事務所を立ち上げて良かったと感じる点は、「経営者」という視点を持つ機会が増えたことです。もともと私は病院勤務医として働いていたため、経営の観点から物事を考える機会はほとんどありませんでした。
しかし、事務所を設立し、妻と共に経営を行うことで、「雇われる者」のマインドから「事業主」としてのマインドセットが徐々に培われていると感じています。
事務所を立ち上げて感じた困難として、やはり事務的な煩雑な業務が増えたことがあります。特に最初は慣れていないため、非常に大変でした。簿記2級を取得しており、簿記の知識はあったものの、初年度は税理士に頼らず自力で決算までこなしてみました。しかし、そこで時間と労力がかなりかかり、「これはさすがに厳しいな」と感じる瞬間もありました。
実際に産業医業務を開始してからは、企業への訪問や面談といった業務が忙しくなり、事務作業との両立が難しくなったため、現在は税理士に事務的な手続きを依頼しながら業務を進めています。
■これから
今後もまずは産業医としてのキャリアをしっかり構築していくことが最優先だと考えています。実際のお仕事は企業様との信頼関係の上で成り立つものなので、現時点で事業を大きく拡大するような計画は考えていません。
今は妻と二人で自立し、お互いがそれぞれの役割を果たしながら、しっかりと事務所を運営していきたいと考えています。
私も長年勤務医として働いてきて、家族との時間や仕事との両立について考える中で独立を決めました。独立には良い点も大変な点もありますが、「自分がやりたいことにチャレンジできているな」という実感は、自分の中でも間違いなくあります。
「やらないで後悔するより、やって後悔する」という言葉の通り、独立にはリスクもありますが、実際に得られる経験は非常に大きいです。困難に直面しても、それが後々自分にとってプラスに転じることもあります。ですから、フリーランスや独立を考えている方がいらっしゃれば、ぜひ思い切ってチャレンジしてみることをお勧めします。
お話を伺って、独立という決断が多くのチャレンジと学びの連続でありながら、真に自分らしく働ける素晴らしい選択肢だということが伝わってきました。困難を乗り越えながらも目指す道を進んでいる姿勢に、私自身も大いに刺激を受けました。
キャリアについて悩まれている方々にとっても、きっと心強いメッセージになったことと思います。本当にありがとうございました!
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