
治療を続けながら働く人が増えるなか、企業には一人ひとりの状況に応じた「治療と就業の両立支援」が求められています。しかし現場では、「どこまで配慮すべきか」「本人の希望と安全配慮をどう両立するか」「制度はどのように整備すればよいか」など、悩みや迷いの声も少なくありません。
さんぽLABのウェビナーでは、東海大学医学部客員教授の立道昌幸先生をお迎えし、治療と就業の両立支援についてご講演いただきました。
本記事は、講演後の質疑応答の中から、参加者から寄せられた実践的な質問とその回答をQ&A形式でご紹介します。企業や産業保健職が両立支援を進めるうえでのヒントとして、ぜひ参考にしてください。
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Q1. 両立支援を始める際の第一歩
Q2. 職場の理解促進や風土づくり
Q3. 本人の希望と安全配慮義務
Q4. 両立支援プランの費用
Q5. 短時間勤務での復職
Q6. 名称変更の背景
Q7. 就業制限と長時間労働
Q8. 過度な配慮への対応
Q9. 専任産業医がいない場合
Q10. 終末期患者の就労支援
Q11. 契約社員への支援
まとめ
Q1. 従業員数の多い企業が、これから両立支援を始める場合、まず何から着手すべきですか?
A. まずは相談体制の整備が第一歩です。
両立支援は、従業員本人が「相談したい」と手を挙げることから始まります。そのため、まずは相談窓口を設置し、安心して相談できる環境を整えることが重要です。
ただし、窓口を作るだけでは利用されません。トップメッセージなどを通じて、会社として両立支援に取り組む姿勢を発信し、周知していくことが必要です。
制度づくりは最初から完璧を目指す必要はありません。実際の相談事例を積み重ねながら、「どのような制度が必要か」を検討し、徐々に整備していくことが望ましいとされています。
Q2. 産業保健職は、職場の理解促進や風土づくりにどのように関われますか?
A. 病気への理解促進と情報管理の徹底が重要な役割です。
治療と就業の両立を進めるためには、職場全体が、がんという病気や治療による影響について正しく理解することが欠かせません。
産業保健職は、研修や情報発信を通じてがんや治療への理解を促進するとともに、がん検診の受診勧奨や健康づくりなどの一次予防・二次予防にも取り組み、健康を大切にする職場風土づくりを支援します。
また、従業員が安心して相談できるよう、個人情報の管理や情報共有ルールを徹底することも重要な役割です。
Q3. 本人は働きたいと希望していますが、安全配慮とのバランスはどのように考えればよいでしょうか?
A. 本人の希望だけでなく、現在の健康状態を客観的に評価することが大切です。
治療中の従業員は強い就労意欲を持っていることがありますが、安全配慮とのバランスを考えるためには、まず現在の健康状態を正確に把握することが欠かせません。
倦怠感や疲労感などは外見からは分かりにくいため、面談などを通じて症状や体調を丁寧に確認することが重要です。そのうえで、本人の希望だけでなく、残存能力や安全に働ける状態かどうかを医学的な視点も踏まえて評価し、就業の可否や必要な配慮を検討していくことが求められます。

Q4. 両立支援プラン作成時の自己負担額はどのくらいですか?
A. 相談支援料400点の場合、3割負担で約1,200円です。
両立支援プラン作成時の相談支援料は400点(4,000円)となり、3割負担の場合の自己負担額は約1,200円です。ただし、この費用は受診のたびに発生するものではなく、両立支援プランを作成する際に算定されます。一般的には3か月に1回程度の頻度で見直し・作成が行われます。
Q5. 短時間勤務では復職基準を満たさない場合、企業はどのように考えればよいでしょうか?
A. 「できることから始める」という考え方が重要です。
治療と就業の両立支援は努力義務であり、企業ごとにできることから取り組むことが求められています。そのため、従来の復職基準にこだわるのではなく、短時間勤務での復職を認めるなど、柔軟な運用を検討することも一つの方法です。
まずは、自社でどのような支援が可能かを考え、復職基準や働き方について議論することから始めることが大切です。
Q6. 「仕事と治療の両立支援」から「治療と就業の両立支援」に名称が変わった理由は何ですか?
A. 働くことにより重点を置いた表現になったためです。
「仕事」から「就業」への変更に大きな考え方の違いはありませんが、「就業」という言葉には、治療を続けながら「働くこと」を支える意味合いがより強く込められています。
また、両立支援の対象が、がんをはじめとする一部の疾患からすべての疾患へと広がったことも背景の一つです。名称は変わりましたが、働きながら治療を続けられる環境づくりを支援するという基本的な考え方は変わりません。
Q7. 就業制限が出ている従業員が、自主的に長時間働いている場合はどう対応すべきですか?
A. 本人の意欲を尊重しながらも、会社のルールを守ることが必要です。
治療中であっても働きたいという意欲は大切ですが、会社には安全配慮義務があります。フル在宅勤務や残業禁止などの就業制限が設けられている場合は、本人の希望であってもルールを守る必要があります。
産業保健職は、就業上の配慮を継続するためにも制限を遵守する重要性を説明し、本人の理解と納得を得ながら支援していくことが求められます。両立支援は本人だけでなく、会社も含めてお互いがルールを守りながら進めていくことが大切です。
Q8. 配慮が行き過ぎていると感じる場合、ルールを厳格化するべきでしょうか?
A. ルールだけでなく、職場全体の理解を深めることが重要です。
過度な配慮は、周囲の負担感を高めたり、結果として本人の孤立につながったりする可能性があります。一方で、「権利だから」と制度だけを前面に出してしまうと、職場の理解が得られず、両立支援そのものがうまく機能しなくなることもあります。
そのため、ルールを整備することも重要ですが、それ以上に「なぜ両立支援が必要なのか」といった共通認識を持つことが大切です。両立支援を職場に根付かせるためには、制度だけでなく、社員同士の理解を深める取り組みが欠かせません。
Q9. 専任産業医がいない場合、両立支援プランは誰が作成すればよいですか?
A. 専任産業医がいる場合は産業医が中心となり、いない場合は外部の支援機関を活用できます。
両立支援プランは、専任産業医がいる場合は、その産業医に作成してもらうのが望ましいとされています。一方で、産業医との連携が難しい場合や専任産業医がいない場合には、外部の支援機関を活用することも可能です。
厚生労働省の「両立支援ナビ」では、治療と仕事の両立支援に関する情報や相談窓口が紹介されています。労災病院の両立支援センターや産業保健総合支援センターなどの支援機関も活用できます。
Q10. 終末期のがん患者が、最後まで働きたいと希望した場合の支援はどう考えればよいですか?
A. 本人と職場が合意しているのであれば、その支援は尊重されるべきです。
両立支援は、本人と職場の合意のもとで成り立つものです。本人が働き続けることを希望し、職場も無理のない範囲で業務配慮を行いながら受け入れているのであれば、その支援は適切な対応と考えられます。
がん患者の中には、治療中や終末期であっても社会とのつながりを持ち続けたいと考える方も少なくありません。大切なのは一律の就業中止基準を設けることではなく、本人と職場が十分にコミュニケーションを取り、双方が納得できる形で支援を続けることです。働くことを通じて社会との接点を維持できるのであれば、その選択も両立支援の一つの形といえるでしょう。
Q11. 契約社員の場合、治療によって十分な労務提供が難しいときは契約更新しないことも認められますか?
A. 正社員・契約社員にかかわらず支援を検討することが望ましいものの、最終的には個別判断となります。
契約形態によって両立支援の機会に差が生じることは大きな課題です。本来は、契約社員であっても正社員と同様に両立支援を受けられることが望ましいとされています。
一方で、企業や職場の状況によって対応できる範囲は異なります。合理的配慮をどこまで行えるかは、会社や職場の体制・余力なども踏まえながら判断する必要があり、一律の基準を設けることは難しいのが実情です。
そのため、契約更新の可否についてはケースごとの検討が必要ですが、まずは雇用形態に関わらず、同じ職場で働く仲間として支援の可能性を考えることが大切だとされています。
まとめ
治療と就業の両立支援に正解はなく、企業や職場、本人の状況によって必要な支援は異なります。大切なのは、まずはできることから取り組み、相談体制や職場の理解を少しずつ積み重ねていくことです。
また、本人・職場・産業保健職が対話を重ねながら、一人ひとりに合った支援を考えていくことが、治療と就業の両立を支える第一歩となるでしょう。
<講師> 立道昌幸先生
1987年産業医科大学医学部卒業
臨床研修後に10年間ソニー(株)専属産業医
その間、国立がん研究センターにて発がん研究に従事
2001年よりWHO世界がん研究機構(IARC)訪問研究員
2005年より昭和大学医学部衛生学講座助教授
2013年より東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学教授
2026年4月より東海大学医学部客員教授
専門は、職域におけるがん対策
「職域におけるがん検診に関するマニュアル」ワーキング構成員
がん対策推進企業アクション、アドバイザリーボードメンバー等
労働衛生コンサルタント
産業衛生学会指導医