第1回・第2回職場復帰支援勉強会で出た質問について難波克行先生に追加でご回答いただきました! 9月・10月と開催しました職場復帰支援勉強会ですが、質疑応答の時間をしっかりと設けていたものの、想像を超える多くの質問をいただき、時間内に全て回答することができませんでした。そこで、時間内に回答しきれなかった質問と回答については会員限定で公開させていただます。皆様、是非ご覧ください。 ~回答しきれなかった質疑応答集~ Q.生活記録表は、毎日提出してもらった方がいいでしょうか?A.生活記録表を毎日提出させることは不要と考えます。職場復帰の準備や、職場復帰のタイミングの判定の目的であれば、月1回ほど、産業保健スタッフとの面談の機会に確認すれば十分です。回復の状況は、毎日確認するよりも、1ヶ月毎に先月と比較したほうがわかりやすいです。毎日きちんとつけてもらうために毎日の提出を検討しているのかもしれませんが、2〜3日まとめて記録しても、1週間分をまとめて記録してもよいかと思います。「産業保健スタッフから毎日催促されるので記入できるようになった」という状況よりも、「最初はなかなか記録や提出が難しかったが、体調の回復とともに、何とか毎月の面談で提出できるようになった」という状況のほうが、職場復帰には望ましいでしょう。Q.主治医が就業可と判断したが、産業医や会社が就業不可と診断した場合、傷病手当金の需給期間に影響しないでしょうか。その期間の手当てについて質問されることがあったので、教えていたければ幸いです。A.主治医が傷病手当金の申請書に記入してくれないときは、産業医が別紙に「意見書」を書いて、それを添付して提出します。詳しくは下記リンクをご参照ください。https://electricdoc.net/archives/7476Q.生活記録表を見るとまだ復職不可の状態であり、そのことを人事・産業医にお伝えしても復職可として復職スタートしてしまうこともあります。その場合は保健師としてどのように対応すべきでしょうか。A.いったん決定したものや、すでに動き出しているものを、看護職の立場で軌道修正するのはとても労力がかかります。そうなったときにどうするかではなく、そのような場面に「ならないように」どうするかを考えて先手を打ちましょう。例えば、職場復帰の時期が早すぎて再発したような事例は社内にないでしょうか。そうした事例を材料に、今回の研修会の内容を社内で共有し、生活記録表を用いた復職可否の判断の運用について相談してみるとよいと思います。Q.当社はオフィスワークが中心なのですが、生活記録表と一緒に「30日間ノート」というワークブックを購入してやってもらっています。他にもこのような再発防止のためのワークブックがございましたら教えていただけると嬉しいです。A.休業者自身が取り組めるワークブックとしては『こころが晴れるノート』(創元社)などもあります。認知療法のセルフワークブックです。ただ、こうした教材はあくまでも「副読本」扱いとして、復職のための必須条件には位置付けないほうが運用しやすいかと思います。また、人によって進み具合も違いますし、うまく役立てることができるかにも個人差があります。ワークブックの内容について産業保健スタッフに気軽に相談できるよう、まずは産業保健スタッフ自身が内容を熟読し、実践してみるとよいと思います。Q. 休職中は業務を指示できないということで、社員の日常の過ごし方について、会社からはあまり口を挟みにくい状況です。産業保健スタッフとしては、出社練習などについて、どのように会社に理解してもらえばよいでしょうか?A.まず、産業保健スタッフからの外出練習・出社練習についてのアドバイスは、業務の指示ではない、ということを会社側に明確に理解してもらいましょう。外出練習や出社練習は、休業者本人が産業医や主治医のアドバイスのもとで、職場復帰にむけて自主的に取り組む活動であり、労務提供ではない、という位置付けが適切だと思います。その取り扱いを明確にするためにも、外出練習や出社練習を行う時には「会社の敷地内には立ち入らせない」「会社の門の前まで来させない」「毎日の報告は求めない」など、業務っぽくならないような工夫が必要です。外出練習などに関する産業保健スタッフからの指導やアドバイスは「糖分の摂りすぎに注意しましょう」「運動を増やしましょう」「禁煙にチャレンジしましょう」というような保健指導と同じようなものだと説明すると、理解してもらいやすいかもしれません。Q.主治医と産業医の間で復職に関する意見が違う場合には、セカンドオピニオンとして他のメンタルクリニックへの受診勧奨は可能でしょうか?A.可能ですが、いくつか注意も必要です。精神疾患の病状の評価は1回の診察では難しく、数回の通院や一定期間の病状の観察が必要になるかもしれません。紹介先の医師が、社内の復職支援のルールを理解していることも重要になります。受診費用をどうするか(会社負担とするか、本人負担とするか)も事前に決めておく必要があります。また、セカンドオピニオンの結果としても、「主治医は復職OK」→ 「産業医は復職NGもしくは保留」→ 「セカンドオピニオンの医師も復職NG」→「会社としては復職不可と決定」という流れになる場面が多いと思います。すると、本人は「会社に都合のよい判断をしてくれる医師のところに、わざわざ時間と手間をかけて受診させられた」と考えてしまうかもしれません。デメリットをメリットが上回る場合に限定しての運用になるかと思います。Q. 組合がない企業で、主治医と産業医の復職に関する立場が違う場合に、例えば東京ユニオンなどに団交を求められたり、訴訟に発展したケースがあります。先生に置かれましてはこのようなケースではどのようにご対応なされましたでしょうか?A.「産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない」と、労働安全衛生法13条に追加された条文のとおり、裁判になったり、第三者から異議をとなえられたりした時にも、「産業医としては、こういう根拠に基づいてこういう判断をした」ということを「誠実に」説明することが基本になります。そのためには、判断の根拠となる情報や、判断の内容を、きちんと面談記録に残しておくことが重要になります。適切な面談記録の作成方法については https://electricdoc.net/archives/8076 をご参照ください。 また、そのような事態になると人事担当者などはかなりのストレスを感じますので、担当者の苦労をねぎらったり、社内の関係者の疑問に答えたり、類似の裁判事例を紹介したりすることも必要になります。 Q.誰が見ても復職は無理だと思われる状況でも、社員が希望すれば復職可の診断書を出してくる主治医がいて、対応に困っています。どうすればいいでしょうか。A.本人の意向や希望を優先して診断書を作成するのは、主治医の役割上は仕方がないことです。主治医の診断書の内容がどうあれ、社内でしっかりと復職支援の対応を進めていけるよう、復職の判断基準や対応の手順を決めておくのが良いと思います。また、社員が調子を崩した時にはおすすめできるクリニックを受診してもらうよう、準備しておかれると良いと思います。病院のホームページを印刷して、すぐに手渡せるように準備しておいたり、その場でクリニックに電話をかけて本人に予約をとってもらったり、というような工夫が考えられます。Q.本人が産業医面談を拒否したり、主治医への連絡についても同意をしないとき、どのように対応したらよいのかアドバイスください。A.「職場復帰のために必要不可欠な対応である」として、本人に繰り返し説明するしかありません。最初は産業保健スタッフから、何度かやってダメなら、次は人事担当者から、何度かやってダメなら、次は人事担当の部門長から、などと、徐々にエスカレーションしていきます。基本的には、本人が承諾するまでその対応を繰り返すことになります。その際は、ルールを守らない相手を責めるような発言はせず、「これは社員の健康を守るための、会社として必要なプロセスだ」「体調が回復するまでしっかり療養してほしいし、体調が回復したら、また職場に戻って来てほしい」というスタンスで繰り返し説明します。「会社があまりにもしつこいので、しぶしぶながら面談を受けることにした」という逃げ道を本人に残しておくことも重要です。Q.産業医も保健師も常駐していない事業所では、体調の悪そうな社員の初期対応は誰が行うのがよいでしょうか? 人事総務の担当者で問題ないでしょうか? それとも、産業医が月1回くるのを待って面談してもらうほうがよいか?A.そのような場合にどう対応するか、産業医と相談して方法を決めておきましょう。まずは人事総務の担当者が話を聞いて、とりあえず(あるいは産業医に確認した後で)病院を受診してもらう、相談内容や受診結果は、都度、産業医に電話やメールで報告して指示を仰ぐ、という対応が安心だと思います。 ◇関連ページ・第1回職場復帰支援勉強会『初期対応~休業中の面談~生活記録表の導入まで』 パート1・第1回職場復帰支援勉強会『初期対応~休業中の面談~生活記録表の導入まで』 パート2・第1回職場復帰支援勉強会『初期対応~休業中の面談~生活記録表の導入まで』 パート3・第2回職場復帰支援勉強会『職場復帰支援の全体の流れと前回の簡単な復習、生活記録表を用いた復職判定〜復職プラン作り〜復職後のフォローアップまで』 パート1・【11月24日 Web開催】第3回職場復帰支援勉強会 お申込み受付開始しました。